最新記事

日本企業

日本企業よ、もういい加減「70年代の働き方」をアップデートしよう

MAKING JAPAN PRODUCTIVE AGAIN

2022年3月30日(水)17時31分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)
日本の満員電車

ラッシュにもまれて朝からヘトヘトでは生産性は上がらない(東京) ooyoo-iStock

<満員電車に揺られて長距離を通勤し、毎日カイシャで顔を合わせる......。この働き方に戻ることは従業員のためにも企業のためにもならない>

1970年代に東京大学で教えていた当時、私は往復3時間半かけて通勤していた。ある日、その頃はまだ国鉄と呼ばれていた今のJRがストライキで運行停止になり、大学に行くには私鉄と地下鉄を乗り継いでいつもの倍も時間がかかることなった。教授会に出るために7時間近くかけて移動する? いや、自宅で仕事をしたほうがいい──私はそう考えたが、驚いたことに学部長はダメだと言い、同僚からもブーイングをくらった。

考えてみれば、そうした反応は予測できたはずだ。日本の労働文化は硬直的なことで悪名高い上、人間関係を非常に重視する特徴がある。社員は毎日カイシャで顔を合わせ一緒に仕事をする。それも多くの場合は定年までずっと、だ。

新型コロナウイルスのパンデミックは、日本がこうした非生産的な慣行から脱却するきっかけとなるだろうか。人々が生き生きと働き、高いパフォーマンスを発揮する──そんな新しい労働文化がこの国に根付くだろうか。

他国では、リモートワークやズーム(Zoom)会議がニューノーマルになるなど、パンデミックは明らかに働き方改革を促す要因になっている。もっともアメリカをはじめ一部の国では、パンデミック以前から硬直的なルールよりも生産性を重視する働き方が広く定着していた。私が通勤に7時間かけるのは無駄だと考え、特例的に在宅ワークが認められると思ったのも、1つにはアメリカの大学院に留学した経験があったからだ。

その後に赴任したエール大学では、同僚たち(例えば管理部門の職員)は気兼ねなく休暇を取っていた。彼らは自分の不在中、業務に支障がないよう事前に準備をし、必要な事柄を周囲に伝えていた。

独創的な発想が生まれない労働文化

今の情報通信技術を活用すれば、高い生産性を維持しつつ、別の大陸にいる同僚と一緒に仕事をすることも可能だ。

ゴールドマン・サックス、ネットフリックスなど一部の米企業は可能な限り早期に通常の業務形態に戻すと言っているが、完全にリモートワークに切り替える企業(スラック、デロイトなど)も多くあり、リモートとオフィスワークを使い分ける、より柔軟なハイブリット型を採用する企業(グーグル、JPモルガンなど)もある。

日本企業の大多数がパンデミック後に従来の就労形態、つまり長時間の拘束、融通の利かないフルタイム勤務、体力を奪う満員電車での通勤、有給休暇すらまともに取れない風潮といった労働文化に回帰すれば、人々も、そして経済も疲弊するだろう。日本には働きすぎて死ぬことを意味する「過労死」という言葉まであるのだ。こうした労働文化では、21世紀型の経済成長に欠かせない独創的な発想は生まれず、イノベーションは期待できない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中