最新記事

インド太平洋

クアッドで議論されるべき人民解放軍の本当の脅威

An Honest Look at the Challenges China’s Military Presents

2021年3月11日(木)15時54分
ジェームズ・パーマー
中国初の国産空母「山東」

中国初の国産の空母「山東」。中国軍の2隻目の空母だ  REUTERS/Striger

<中国は軍備増強と兵器システムの刷新を進めているが、軍内部には脆弱性も抱えている>

中国の潜在的な脅威を視野に入れた非公式な対話の枠組み「日米豪印戦略対話」(クアッド)の初の首脳会談がオンライン形式で米東部時間の3月12日に開催される予定だ。

会談に先立ち、デービッド・フィリップ米インド太平洋軍司令官が3月9日に米議会で行なった証言が注目されている。

とりわけ国境地帯で中国と小競り合いが絶えないインドにとっては、ヒマラヤのラダック地域の複数の拠点に中国軍が居座り続けているというフィリップ司令官の証言は聞き捨てならないものだった。インドは軍のトップレベルで中国と協議を重ね、今年2月に係争地から双方の部隊を引き上げることで合意を取り付けたばかりだったからだ。

しかし中国が圧倒的な軍事力を持つかのような「中国脅威論」はミスリーディングだ。インドはともあれ、アメリカとの比較では、中国の軍備ははるかに劣る。米有力シンクタンク・戦略国際問題研究所の推定では、中国の防衛予算はおよそ2000億ドルで、アメリカの予算9340億ドル前後の4分の1にも満たない。アメリカは、中国が攻撃的な姿勢を強める事態を深刻に受け止めているが、こうした現実を忘れてはいけない。

アジアの海から米軍を締め出す戦略

アメリカにとって中国の軍備が厄介なのは、その規模と能力のためではない。問題は、アメリカが「接近阻止・領域拒否」と呼ぶ中国軍の海上戦略であり、中国周辺の海域への米軍の介入を妨害することを目的としてミサイル・電子兵器を配備していることだ。

例えば、中国が沿岸部の基地からミサイルを発射すれば、米軍の艦船が紛争海域に接近することはほぼ不可能になる。中国が台湾に武力行使をちらつかせるなか、この状況はアメリカの戦略を深刻に脅かす。

ただ、中国軍の内情は外部からは見えにくい。そのために中国の軍事的脅威が過大評価されている面もある。中国軍は先端技術の導入を精力的に進めているが、上層部の腐敗から兵器システムのメンテナンスの不備まで、多くの弱点を抱えており、その一掃は一朝一夕にはいかない。

中国軍のプロパガンダと秘密主義のせいで、中国国内でもこうした問題を精査し議論することは難しく、外部の人間が情報を入手することは不可能に近い。その点がアメリカや台湾とは違う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ

ワールド

アングル:好調スタートの米年末商戦、水面下で消費揺

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中