最新記事

東アジア

南シナ海「東沙諸島」が台湾危機の発火点になる

A New Flashpoint in the South China Sea

2021年2月18日(木)13時40分
小笠原 欣幸(東京外国語大学教授)

小島と環礁でつくられる東沙諸島はこれまでほとんど注目されてこなかった。台湾が実効支配するが、中国との距離のほうが近い ALBERTO BUZZOLAーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<バイデン新政権誕生で強まる中国の軍事的威嚇、新たに「東沙諸島」が習近平の標的になる理由>

中国による台湾への軍事的威嚇が強まっている。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は「台湾統一への強い自信と決意」を表明したが、実は台湾統一は一向に近づいていない。「台湾アイデンティティー」が広がった台湾では、「統一お断り」が民意の主流である。その現実にいら立つ中国メディアは「台湾に懲罰を」という主張を繰り返している。中国のやり方は暴力で家族を支配する行為に似ていて、台湾の気持ちはますます離れていく。

現時点では、中国が台湾侵攻作戦を敢行する可能性は低い。それは、台湾軍の抵抗、米軍の介入、国際社会での反中感情の高まりが予想されるからである。しかし今年7月の中国共産党創設100周年、そして来年の第20回共産党大会を「中国の夢」で壮大に演出したい習は、台湾問題で何らかの「成果」を示したいであろう。そこで浮上してくるのが東沙諸島だ。

tousa-map02.jpg台湾が実効支配する東沙諸島は南シナ海の北東に位置する環礁で、東沙島だけが「島」である。飛行場があるが島の大きさは約2800×860メートルしかない。台湾の海巡署(海上警察)職員や研究者が常駐するが一般住民はいない。東沙は地理的に中国沿岸から近く、台湾本島からは距離がある。台湾本島からは約410キロあるが、広東省の汕頭(スワトウ)からは約260キロしかない。現在は台湾の海軍陸戦隊約500人が守備に就いているとされるが、平坦な地形で基本的に防衛は不可能な島だ。

中国軍は常時奪取可能

以前、東沙はほとんど顧みられなかったが、南シナ海の戦略的重要性が高まったことで注目度が増してきた。太平洋からバシー海峡を通って南シナ海に入る入り口に位置するので、中国が東沙を支配すれば南シナ海にふたをする形となり、艦船や航空機の通過を監視・牽制する門番の役割を果たす。

東沙への警戒を大きく高めたのは、昨年5月の「中国軍が東沙諸島の奪取演習を計画」という共同通信のスクープ記事だ。中国軍は東沙と台湾本島の間の海・空域で活発に活動し、台湾の補給路を断つ演習を集中的に行ったとみられる。上陸演習は海南島など別の場所だった可能性が高い。10月には、東沙島に補給物資を運ぶ台湾の航空機が高雄から離陸したが、香港の航空管制から「安全を保障できない」と通告され、やむなく引き返す事件があった。

軍事専門家は「中国軍がいつでも東沙の補給路を断つこともできるし、奪取しようと思えばできる状況にある」とみている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中