最新記事

対談:船橋洋一×國井修

【緊急事態宣言】コロナ対策を拒む日本人の「正解主義」という病

2021年1月8日(金)17時20分
澤田知洋(本誌編集部)

日本には有事への備えがない

<國井>報告書の提言にはサージキャパシティ(危機時における人員体制などの対応能力)を平時から増やしていく、という提言もあったが、この点はどうお考えか。

<船橋>いざという時に機動力を発揮して最大限の資源を動員できるサージキャパシティを社会として構築していこうと報告書では提言したが、その背後の考え方としては有事に備える国家・社会を育てようということになるのだと思う。

第二次大戦後、われわれは有事というものを十分に考え抜いてこなかったが、いよいよ考えざるを得ない。報告書では国民の行動変容を促すため、(国民の自主的協力が前提である)新型コロナ特措法を見直し、罰則規定や休業要請のための事業者への補償ルールの導入が必要だと提言した。また政府と都道府県の知事との権限と責任の明確化もできていないとも指摘している。有事への備えを法体系のなかで位置づけることが必要になってきている。

<國井>おっしゃる通りで、これを平時から考えないといけない。特に備えは官だけでは全然足りず、民間をどのように育て活用していくかも重要だ。最近は(東京都のコロナ関連サイトを立ち上げた非営利団体の)コード・フォー・ジャパンのように、市民が自ら参加を名乗り出ることも多い。だがこれらの受け入れに公的機関はまだ慣れていない。情報共有にも二の足を踏む。今後、社会課題の解決に向けて市民社会や民間とどう協働するか。その仕組みや信頼関係の構築の方法を具体的に考える必要がある。

罰則の効果は国ごとに違う

一方で罰則規定の導入についてはある程度必要だと思うが、その厳格さについては十分な検討を要する。欧米の政府のコロナ対応は日本より厳しい国が多いが、そこには厳しくしなければ変わらない国民の文化、人々の行動や反応がある。例えばフランスは外出禁止令を発しても1日に4000人以上が無視し、罰金を4000円ほどから40万円以上にまで引き上げた。欧州では感染拡大の第3波が来ているが、罰則がありながらマスクをせず、集まって騒ぐ人々が少なくない。個人の自由や権利を主張する人々には、有事には強権発動するしかない。

日本では固有の文化や同調圧力などもあって、自粛や勧告であっても全体的にはかなり順従する。ただし、従わない人、また自粛だけでは防げないハイリスクをどうするか。罰則ではない方法もあると思う。例えば歓楽街の同業者組合などが自主的にリスク軽減の方策を模索し、保健所や専門家が細やかにサポートするなどの方策だ。トップダウンのみならず、住民参加などのボトムアップアプローチは日本の結核などの感染症対策でも成功の秘訣だった。

<船橋>先ほど國井先生から戦略的官民連携という言葉があったが、非常に重要な概念だ。日本では官民連携は往々にして政府からの「お流れ頂戴」になりがち。だが、技術革新、第4次産業革命が民間主導で進んでおり、これからはそうはいかない。

また、えてして民間、学者は完璧を求めすぎるが、実際に政治プロセスに入ったときにどのように政策を可能にしていくか、という「政策起業力」が問われている。政策はどこかで妥協していくことが必要であって、まずは第一歩を動かしていく、といったことを含めたセンスが必要だろう。特に重要なのは行政が苦手なグローバルな視点でルールや標準、規範を作ること。そうしたことができる民間人材を巻き込む必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権、鉄鋼・アルミ関税引き下げ報道を否定 「決定

ビジネス

米CPI、1月は2.4%に鈍化 基調インフレ圧力は

ワールド

米政権、ハーバード大を提訴 「入試の人種考慮巡る捜

ワールド

五輪=CAS、「追悼ヘルメット」のウクライナ選手の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の定説に挑む、3人の日本人科学者と外科医
  • 4
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 5
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 6
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 9
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 10
    「賢明な権威主義」は自由主義に勝る? 自由がない…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中