最新記事

新型コロナウイルス

健康危機監視組織、コロナ対策で世界の政治指導者を批判「壊滅的なパンデミックに適切な行動せず」

2020年9月15日(火)10時14分

世界保健機関(WHO)や世界銀行が立ち上げた組織「世界健康危機モニタリング委員会(GPMB)」は、感染症流行に対する警告を聞き入れなかったり、準備を怠ったりした政治指導者全体の失敗が「危機にさらされている世界」を「秩序が乱れた世界」に変えたとする報告書を公表した。写真はマスクを着用している移民労働者。2020年5月15日にシンガポールで撮影。(2020年 ロイター/Edgar Su)

世界保健機関(WHO)や世界銀行が立ち上げた組織「世界健康危機モニタリング委員会(GPMB)」は、感染症流行に対する警告を聞き入れなかったり、準備を怠ったりしたとして、政治指導者全体の失敗を批判する報告書を公表した。

報告書は「準備に対する財政・政治的な投資が不十分だった。そしてわれわれは皆そのつけを払っている」と指摘。「世界がそうした措置を取る機会がなかったわけではない」とした上で、「過去10年にわたり行動を求める数多くの声があったものの、必要な変化は起きなかった」と付け加えた。

GPMBは元WHO事務局長のグロ・ハーレム・ブルントラント氏が委員長を務めている。同氏はWHOを監視する独立機関のトップも務めている。

中国で新型コロナウイルスが明らかになる数カ月前に公表された2019年版のGPMB報告書は、「致命的な呼吸器病原体によって急速に広がるパンデミック(世界的大流行)」の真の脅威があるとし、こうしたイベントが数百万人を死に至らしめ、世界経済に大損害を与える可能性があると警告した。

「秩序が乱れた世界」と題した今年の報告書は、世界の指導者が「壊滅的なパンデミックの危険性をこれほど明確にあらかじめ警告されていた」ことはこれまでになかったと指摘。それにもかかわらず、世界の指導者は適切な行動を取らなかったとした。

COVID─19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックは「流行に対する予防や準備、対応を重要視して優先することに全体として失敗」したことを浮き彫りにしたと指導者らを批判し、「病原体は混乱して秩序が乱れた状況で繁栄する。COVID─19はそれを証明した」とした。

また、指導力の欠如が現在のパンデミックを悪化させているとし、「COVID─19から教訓を学んだり、必要なリソースや決意をもって行動したりすることを怠れば、確実にやってくる次のパンデミックは、より深刻な打撃を与えるものになるだろう」とした。

ブルントラント氏は、記者会見で「不幸にも恐ろしいことに、われわれは最も恐れていたことが現実になるのを目にしている。COVID─19の影響はわれわれが予想していたよりも深刻だ」と語った。

世界的な医療助成基金である英ウェルカムトラストの代表で、GPMBのメンバーであるジェレミー・ファラー氏は、指導者らに対し、同じ過ちを繰り返さないよう呼び掛け、「団結という言葉だけでは十分ではない。明確なビジョンが必要だ」と訴えた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる
・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200922issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡

ビジネス

EU、自動車業界の圧力でエンジン車禁止を緩和へ

ワールド

中国、EU産豚肉関税を引き下げ 1年半の調査期間経

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中