最新記事

歴史

パンデミック後には大規模な騒乱が起こる

History Tells Us Epidemics Are Followed by Huge Civil Unrest for These Three Reasons

2020年9月8日(火)18時05分
カシュミラ・ガンダー

疫病の流行にまつわる不満やストレスで人はますます攻撃的に?(写真は黒人の死に抗議するデモ隊と警官の衝突。9月3日、ニューヨーク)REUTERS/Shannon Stapleton

<疫病の歴史によると、パンデミックの後にはまともな抗議運動が力を失い、時の権力を揺るがすような騒乱が起こることが多い。その因果関係は?>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が終息すれば、世界各地で再び社会不安が高まる可能性がある──2人の研究者がこう警告し、3つの理由を挙げて説明した。

イタリアにあるボッコーニ大学のマッシモ・モレッリ教授(政治科学)とフェラーラ大学のロベルト・チェンソロ教授(経済学・経営学)は、学術誌「ピース・エコノミクス、ピース・サイエンス・アンド・パブリック・ポリシー(平和経済学、平和科学と公共政策)」に論文を発表。「程度の差はあれ、過去に大流行した疫病の多くは社会不安を生み出してきた」と指摘した。

2人は、黒死病(ペスト)が大流行した1300年代からスペイン風邪のパンデミックが起きた1918年までの間に発生した、57の疫病に注目。それぞれの疫病の発生時期周辺に起きた抗議活動や騒乱の証拠を見直したところ、疫病の流行と明確なつながりのない反乱は4つしかない。そしてたとえば黒死病が流行した後には「複数の権力を揺るがす民衆の暴動が起きた」という。

モレッリとチェンソロはまた、過去5回のコレラ流行にまつわる証拠を調べ、それぞれの流行期に起きた社会的緊張の高まりが「重大な反乱」につながったかどうかを検証。その結果、コレラ流行の前には39件、流行後には71件の反乱が起きていたことを確認した。「5回の流行のそれぞれについて(前後に騒乱が起きるという)同じような特徴的なパターンがみられた」と書いている。

陰謀論が幅を利かせる

研究によれば、疫病は3つの理由から、市民社会に混乱をもたらす可能性がある。1つ目の理由は、感染拡大を防ぐための各種政策が、人々の利益に反する場合があること。2つ目は、疫病が死亡率や経済的安定にもたらす影響によって格差が拡大する可能性があること。3つ目は、心理的なショックから人々が感染拡大に関する理不尽な論調を信じるようになる可能性があり、「それが社会的、人種的な差別や外国人嫌いを招く可能性がある」ためだ。

2人の研究者はまた、2019年末に新型コロナウイルスのパンデミックが発生して以降、「世界中で抗議運動が勢いを失った」と指摘。その例として香港の民主化でも■補足■、グレタ・トゥーンベリに触発された環境保護を求める運動、フランスの「黄色いベスト」運動やイタリアの反極右デモ「イワシ運動」などを挙げ、2019年12月に活発だった20の抗議運動のうち、今も活発に展開されているのはわずか2つか3つだと述べた。

だがモレッリとチェンソロは一方で、新型コロナウイルスのパンデミックが社会・経済関係に及ぼした影響と、政府が感染拡大を防ぐために導入した数々の規制(編集部注:外出規制、休業要請、マスク着用など)の組み合わせが「市民の間に潜在的な不満感を引き起こしている」と警告。ウイルスをめぐる陰謀論が出回り、一部の政治指導者がそれを支持していることが「社会の内部に潜んでいる危険な不和の兆し」だと書いている。

<参考記事>新型コロナのパンデミックが実際以上に危険視される理由
<参考記事>第2波でコロナ鬱、コロナ疲れに変化、日本独自のストレスも

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中