最新記事

感染症対策

11月の米大統領選前にコロナワクチン実用化? ゼロではない可能性

2020年9月12日(土)18時40分

臨床試験のデータをあらかじめ決められた幾つかの段階で審査するのが、外部専門家でつくる効果安全性評価委員会(DSMB)だ。圧倒的に有効である、あるいは逆に全く見込みがないと判定された場合、その試験を途中でやめることを勧告できる。

ファイザーは、被験者32人が感染した段階でDSMBによる最初の審査を受ける予定。もっともロイターが取材した何人かの専門家は、限定的な人数では、本格的な規模の試験で判明するはずの重大な安全性の問題を見落としかねないと警鐘を鳴らした。

ファイザーはDSMBに対して、最初の審査の後、さらに4回の中間的な検証を求めている。広報担当者は「10月までに最初の分析結果を共有できるだけのデータが確保できるのではないか」と述べた。

モデルナは先月、被験者53人が感染した時点でDSMBの最初の審査を受けると投資家に説明した。

これに対してFDAの複数のワクチン諮問委員会メンバーになっているメイヨ・クリニックのグレゴリー・ポーランド博士は、53人の感染に基づく判断では「絶対数が不足している。安全性に関してほとんど知見が得られない」と懸念する。

圧倒的な有効さを理由に試験を打ち切るには、ワクチンの有効性が50%を超えることが必須となる公算が大きい。

ファイザーは、試験打ち切りのための具体的な基準を公表していない。同社のワクチン臨床研究開発部門シニアバイスプレジデント(訂正)のウィリアム・グラバー氏は「この基準が、有効性が非常に高いことの証明になるだろう」とだけ述べた。

拙速のリスク

ファイザー、ワクチン両社ともに7月28日にそれぞれ3万人規模の臨床試験を開始したが、2種類のワクチン接種の2回目の時期が1週間早いファイザーの方が、モデルナよりも先に結果を入手できる態勢にある。モデルナは、高リスクとされるマイノリティー住民の被験者をより多く確保するために試験をゆっくり進めたという面もある。

さらにファイザーの試験では、2回目の接種から1週間が経過した後、感染状況に関するデータの収集に入るが、モデルナはこの間隔を2週間に設定している。

元FDAのバイオテクノロジー局長で現在はパシフィック・リサーチ・インスティテュート上席研究員のヘンリー・ミラー博士は、少数の感染者数に基づく緊急使用許可では、何百万人もの健康な人への使用を想定したワクチンの安全性に対する十分な解答にならないと語り、幾つかの副作用は4カ月から半年後に発生してもおかしくないと強調した。

米バイオ医薬ベンチャー、ノババックスの研究開発責任者グレゴリー・グレン博士は、10月中のワクチン提供は可能性としてはあるとしながらも、国民はより長く待たされそうだとの見方を示した。同社もコロナワクチンを開発中だ。

グレン氏は「今は謙虚に振る舞うのが適切だと思う。FDAは(ワクチン開発)成功に厳格な基準を設けている。そのためにはかなり質の高いワクチンが申請されることになるだろう」と予想した。

(Michael Erman 記者、Julie Steenhuysen記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる
・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中