最新記事

中欧

ロシアがベラルーシに軍事介入するこれだけの理由

Russia May Use Belarus Unrest, Officials Say

2020年8月20日(木)19時01分
トム・オコナー、ナビード・ジャマリ

政権の座に居座る大統領に市民の怒りが爆発(ベラルーシの首都ミンスクで8月16日に行われた抗議集会) Vasily Fedosenko-REUTERS

<NATO諸国に対する「最後の砦」ベラルーシの混乱をロシアが放って置けるはずはない?>

現政権への抗議デモに揺れる隣国ベラルーシに、混乱の収拾を口実にしてロシアが軍事介入する可能性があるとみて、NATOは警戒を強めている──2人の米当局者が本誌に明かした。

ベラルーシでは今月9日に行われた大統領選後、野党支持者らが選挙の不正を糾弾。混乱が広がるなか、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に支援を求めた。ロシアにとって今も自国寄りの政権が支配するベラルーシは、NATOの勢力拡大に対抗するための最後の防波堤だ。ベラルーシと国境を接する旧東欧圏のラトビア、リトアニア、ポーランドはすでにNATOに加盟している。ベラルーシを失うまいと、ロシアが軍事介入に踏み切る可能性は十分あると、米当局者は言う。

「ベラルーシはNATO加盟国ではないから、(ロシアが軍事介入をしても)NATOは対応できない」と、この当局者は匿名を条件に本誌に語った。「しかも、ロシアには前歴がある。(ウクライナ危機の際にも)欧米勢が混乱をあおったと虚偽の主張をし、それを口実に介入した」

加えて、COVID-19の「パンデミックの影響でNATOの即応力が低下している」こともあり、「(ロシアの介入に)好都合な条件がそろっている」と、この当局者は指摘する。

プーチンにすがる独裁者

「出動命令を下すのに最善のタイミングは社会が混乱しているとき、とりわけ権力の空白が生じたときだ。選挙の不正が問題になっていることを考えると、ロシアが『国民投票』を仕掛け、偽りの民意を形成して」、それを口実に介入する可能性もあると、彼はみる。

米国防総省の高官も、匿名を条件に、この当局者の発言を裏付けた。この高官によれば、ロシア軍はNATO各国の軍隊 に比べ、COVID-19の影響をさほど受けていない。「ロシア軍も多少は機動力が低下しただろうが、盛んに軍事演習を行い、迅速に出動できる態勢を誇示している。一部の演習は今も続行中だ」

抗議デモが吹き荒れているベラルーシに、「重要なインフラを守るためと称して、ロシアが治安部隊を送り込む可能性は十分ある」と、この高官は言う。

プーチンとルカシェンコは8月16日に電話で協議した。ロシア政府の公式発表によると、この会談で「ロシア側はベラルーシが直面している問題を解決するため、必要な支援を提供する用意があると改めて保証した」という。公式発表によれば、これは「ロシア・ベラルーシ連合国家創設条約」と、ロシアとベラルーシのほか、旧ソ連の共和国であるアルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが調印している「集団安全保障条約」に基づく支援だ。

ベラルーシ側の公式発表でも、ルカシェンコはプーチンとの電話協議で「外部からの脅威」があった場合はロシアの支援を受けたいと述べた、とされている。

<参考記事>ベラルーシ独裁の終わりの始まり──新型コロナがもたらす革命の機運
<参考記事>ベラルーシとの合同演習は、ロシア軍駐留の「隠れ蓑」?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中