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ロシアがベラルーシに軍事介入するこれだけの理由

Russia May Use Belarus Unrest, Officials Say

2020年8月20日(木)19時01分
トム・オコナー、ナビード・ジャマリ

ルカシェンコはソ連崩壊後、1994年に実施された初の大統領選で勝利して以来、連続6選を果たし、26年間政権の座に居座ってきた。国内で強権支配を固める一方、安全保障面では、NATOが国境地帯で軍備を拡大していると主張し、国境沿いに重点的に陸空軍を配備、常に臨戦態勢を取るよう指示して、大規模な軍事演習を実施してきた。

本誌の取材に対し、NATO報道官は8月18日に行われたイエンス・ストルテンベルグNATO事務総長とポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領の会談の公式発表に言及した。

公式発表には「ベラルーシ政府は言論の自由、平和的な抗議運動の権利など基本的な人権を十分に尊重すべきであり、NATOは引き続き警戒を緩めず、あくまで防衛に徹し、同盟国に対するいかなる侵略をも抑止する準備を維持すべきだという点で、2人の指導者の意見は一致した」と書かれている。

公式発表はさらに「NATOはベラルーシに脅威を及ぼしておらず、この地域で軍備を増強してもいないと、事務総長は強調した」と述べ、「全てのNATO加盟国はベラルーシの主権と独立を支持する」との事務総長の見解を明らかにしている。

ドナルド・トランプ米大統領は先日、ドイツ駐留米軍の一部をポーランドに再配備する協定に署名した。この動きにロシアは神経を尖らしている。

旧東欧諸国を歴訪したマイク・ポンペオ米国務長官は8月15日、ポーランドの首都ワルシャワで記者会見を行い、今回の歴訪では「ベラルーシの人々が主権と自由を勝ち取れるよう、できる限りの支援をする」ための方策を、各国首脳と話し合ったと述べた。

この発言に、ロシアはさらに警戒感を募らせているはずだ。

プーチンは旧ソ連圏に相次いで介入

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は8月19日、国営テレビのインタビューで「外部の勢力がベラルーシの人々と指導層が直面している内政上の困難な問題を利用して、(選挙やデモに)干渉しようとする試み」を懸念していると語った。

本誌の取材に対する、ロシア外務省の回答によれば、ラブロフ外相は「ただの干渉にとどまらず、外部の勢力が自分たちに利するやり方をベラルーシに押し付ける」危険性を懸念しているという。「これが地政学的な問題、ソ連崩壊に伴って生じた問題であることは公然の秘密だ。ソ連崩壊後には各地でさまざまな問題が起きた。これもその1つだと、われわれは認識している。前回のケースは、言うまでもなくウクライナだ」と、ロシア外務省は回答した。

ウクライナでは2014年に親ロシア派政権の退陣を求める運動が広がり、ロシアが戦略的に重要なクリミア半島に介入。住民投票を仕掛け、投票の正当性に対する国際社会の批判を無視して、住民の大多数がロシア編入を望んでいると主張し、武力による併合に踏み切った。以後、今日までウクライナ東部では分離独立を求める武装勢力が攻撃を続けており、その背後でもロシアが糸を引いていると、欧米勢は非難している。

ウクライナ紛争をきっかけに、ロシアと欧米諸国の関係は悪化の一途をたどり、NATOはロシアの侵攻を警戒するポーランド及びバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアに駐留する多国籍軍を増強してきた。

ロシアはウクライナ以前にも、ジョージアからの分離独立を求めるアブハジアと南オセチアを軍事的に支援。モルドバとウクライナとの国境地帯に位置し、モルドバからの独立を宣言したトランスニストリア(沿ドニエストル)にもテコ入れしてきた。これらの地域は国際的には承認されていないが、いずれもロシアの庇護下で事実上の独立状態にある。

<参考記事>ベラルーシ独裁の終わりの始まり──新型コロナがもたらす革命の機運
<参考記事>ベラルーシとの合同演習は、ロシア軍駐留の「隠れ蓑」?

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