コラム

ベラルーシ独裁の終わりの始まり──新型コロナがもたらす革命の機運

2020年08月18日(火)16時30分

コロナの脅威を軽視し続けるルカシェンコだが…… SERGEI GAPON-POOL-REUTERS

<19世紀の飢饉はヨーロッパ全土に革命の機運を広げたが、いま新型コロナ禍のなかでベラルーシの民衆はルカシェンコ退陣を求めて立ち上がった>

8月9日、自由で公正には程遠い選挙により、6度目の大統領当選を決めたベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領。彼は、革命を生む要因について深く考えたことがないのだろう。

この独裁者の目には、政治は実に単純に見えているようだ。自らの権威にわずかでも抵抗する者は片っ端からたたきつぶす。それを徹底すれば万事うまくいくと思っているらしい。これは、20世紀の共産主義指導者たちをはじめ、独裁者の常套手段だ。

だが、ルカシェンコにとっての古き良き時代はもう終わったのかもしれない。

前世紀末に東欧の共産主義国家の指導者たちが思い知らされたように、革命を突き動かす力を国家が完全に抑え込むことはできない。いま世界は激しいストレスと変化の中にある。世界中の国々で多くの人々がさまざまな問題に抗議するために街頭でデモを行い、政府は激しい重圧にさらされている。ベラルーシでルカシェンコ退陣を求めて過去30年間で最大規模のデモが行われたのも、こうした世界的な潮流の一環と見なせるだろう。盤石だったルカシェンコの世界に亀裂が走り始めたと言えそうだ。

ジャガイモ飢饉とコロナ危機

1848年、ヨーロッパが革命の波にのみ込まれたことがあった。ヨーロッパの多くの国で怒れる民衆が立ち上がり、より国民の声を反映し、より抑圧の少ない政治を要求したのだ。

都市化、工業化、教育、ナショナリズムといった要因がこの動きに拍車を掛けたことは、よく知られているとおりだ。しかし、同時代の人々は、民衆を蜂起へと突き動かした最大の要因に気付いていなかった。その前の数年間、ヨーロッパは大量の雨に見舞われていた。アイルランドでは、それが原因で「ジャガイモ飢饉」が起きて、人口の12%が餓死し、13%が国外への移住を余儀なくされた。他の国々でも、天候不良により農作物の不作と飢饉が深刻化した。

これは、ヨーロッパ全土に革命が広がる引き金になった。最終的に、フランスを別にすれば民衆の蜂起は鎮圧された。それでも、雨が既存の体制への反発を増幅させ、その後の歴史の流れに大きな影響を与えたことは間違いない。

新型コロナウイルスは、この現象の今日版になるかもしれない。ルカシェンコは、アメリカのトランプ大統領やブラジルのボルソナロ大統領などと同様、この感染症の脅威を軽んじている。ルカシェンコが推奨するコロナ対策は、「ウオツカを飲む」「サウナに行く」「トラクターを運転する」といったものだ。ベラルーシでは、新型コロナウイルスの感染率がヨーロッパで有数の高さに達しているのだが。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

外貨準備のドル比率、第3四半期は56.92%に小幅

ビジネス

EXCLUSIVE-エヌビディア、H200の対中輸

ワールド

25年の中国成長率、実際は2─3%台か 公式値の半

ビジネス

利下げしなければ、景気後退リスク増大─ミランFRB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story