最新記事

台湾の力量

北京ではなく南へ 台湾・蔡英文が加速させる「新南向政策」の展望

COVID-19 AND TAIWAN’S FOREIGN POLICY

2020年8月5日(水)12時40分
江懷哲(台湾アジア交流基金研究員)

国際的立場を強調するために新南向政策の成功は不可欠と蔡は訴える Ann Wang-REUTERS

<「中国の一部」という呪縛から逃れて東南アジア、南アジア諸国と共にうまく中国離れを実現できるか──全ては2期目の女性総統の手腕に懸かっている。本誌「台湾の力量」特集より>

これからは北(の都=北京)ではなく南(のアジア諸国やオーストラリアなど)を向くべきだ──「新南向政策」と銘打って、蔡英文(ツァイ・インウェン)がそんな経済戦略を発表したのは2016年の8月。まだ総統になったばかりの時期だった。あれから4年、2期目に入った蔡の前には新型コロナウイルスが立ちはだかる。果たして「南向」の風は吹き続けるのか。

20200721issue_cover200.jpg世界中で景気が冷え込んでいる以上、いい数字は期待できない。しかし、サプライチェーンの過度な中国依存を修正する動きは今までになく加速している。一方で、今は台湾の新型コロナウイルス対策が国際的に高く評価されている。こうした状況で、2期目の蔡政権がいかに難題に立ち向かい、政策の優先順位を決めていくか。コロナ危機を「南向」の追い風にできるかどうかは、彼女の手腕に懸かっている。

南向政策の対象に含まれるのは東南アジアと南アジア、そしてオーストラリアとニュージーランド。これら諸国に進出した台湾系銀行の収益は今年第1四半期に大幅に落ち込んだ(前年同期比15.23%減)。これら諸国から台湾への観光客も、2019年には前年比6.8%の大幅増だったが、今年の見通しは絶望的。政府や政府系企業は100億台湾元(約360億円)の緊急支援で、どうにか観光業界を支えようとしている。

しかし、こうしたことは一時的な逆風にすぎない。中国政府はコロナ危機にかこつけて、今後は国民の台湾留学を禁止するとしているが、対抗して台湾政府は島内の大学に働き掛け、南アジアや東南アジアからの留学生を今まで以上に増やす取り組みを始めた。

国内で不都合なことが起きると、いわゆる「ガス抜き」のために台湾との緊張関係を高めるのは中国政府の常套手段だ。しかし中国側が強硬に出れば出るほど、台湾は南を向きたがる。もう大陸との蜜月時代には戻れないという思いは、親中派の多い産業界にも広がっている。

コロナを封じ込めた自信

世界の産業界では、中国に集中し過ぎたサプライチェーンをアジア各地に分散させる動きが始まっている。台湾勢も例外ではない。現時点ではコロナ危機の影響で、台湾からベトナムなど東南アジア諸国への投資は一時的に減速している。しかし長期で見れば、国際分業体制の構造変化は避け難いし、昨今の米中貿易戦争もあって、台湾のハイテク企業が生産拠点を南に移す流れは変わらない。現時点でも、ベトナムへの直接投資額で台湾は世界の第5位につけている。昨年末に二国間投資協定ができたこともあり、両国の蜜月は今後も続きそうだ。

【関連記事】台湾の力量:コロナ対策の原動力はスピード感、透明性、政治への信頼
【関連記事】台湾IT大臣オードリー・タンの真価、「マスクマップ」はわずか3日で開発された

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタが米国で値上げ、7月から平均3万円超 関税の

ワールド

トランプ大統領、ハーバード大との和解示唆 来週中に

ワールド

トランプ米大統領、パウエルFRB議長の解任に再び言

ワールド

イランとイスラエル、再び互いを攻撃 米との対話不透
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「巨大キノコ雲」が空を覆う瞬間...レウォトビ火山の…
  • 8
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 9
    「まさかの敗北」ロシアの消耗とプーチンの誤算...プ…
  • 10
    イギリスを悩ます「安楽死」法の重さ
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中