最新記事

台湾の力量

台湾IT大臣オードリー・タンの真価、「マスクマップ」はわずか3日で開発された

EXPERTISE AND DIVERSITY

2020年7月15日(水)11時45分
近藤弥生子(ノンフィクションライター、台北在住)

迅速な対策と手腕で世界の注目を集めたタン I-Hwa Cheng-The New York Times-Redux/Aflo

<コロナ対策で高く評価される台湾。マスク供給システムは、わずか3日で開発・実施された。なぜそんなことが可能なのか。台湾ITを牽引するオードリー・タン(唐鳳)とは何者か。本誌「台湾の力量」特集より>

国内でマスクが不足するのは不可避だ──2月3日、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた台湾で政府がマスクを買い上げ、実名制(本人確認)で販売することが決定された。実施までわずか3日。この状況下で見事な手腕を発揮し、世界の注目を集めたのがデジタル担当相の唐鳳(タン・フォン、オードリー・タン)だ。
20200721issue_cover200.jpg
実施の2月6日までに、タンとシビックハッカー(協力者の市民エンジニア)らは全6000カ所以上の販売拠点でのマスクの在庫が3分ごとに自動更新されるマップを開発。公平に行き渡らせようとする姿勢が可視化され、いつどこで入手可能かとの最新情報が示されたことが安心感につながり、パニックを免れた。

さらに、台湾政府はインターネットやアプリでマスクを予約購入し、コンビニやスーパーなどで受け取れる「Eマスク」システムを開発。利便性が格段に向上し、3月後半の2日間で約170万人が利用した。

これらの施策はいずれも、高いITスキルに加えて個人情報保護などの知識が要求され、行政機関や決済会社、流通の情報も連携させなければならず、時間の制約もあり難度が高い。そこで先頭に立って見事な統率力を見せたタンは、市民からも各省庁関係者からも高く評価された。

8歳からプログラミングを独学したタンは、インターネットの誕生を機に14歳で中学を退学。15歳で起業、33歳で現場から引退するなど、常人離れした経歴の持ち主だ。一方で、幼い頃から知能も精神面も成熟したタンは伝統的な義務教育の制度になじめず転校を繰り返し、10年間で10の学校に通っている。24歳でトランスジェンダーであることを明かし、女性風の名前に変更した。

「10代で男性の、20代で女性の思春期も経験しました。自分が男性か女性のどちらかに属する存在だとは思っていないんです」とタンは言う。

デジタル人材の育成に注力

2016年に台湾史上最年少となる35歳で入閣した際には、経歴や書類の性別欄に「無」と記入したことも話題になった。台湾社会が多様性を受け入れる象徴の1つとして、タンの存在は国外にまで広く知られるように。「タン氏と働きたい」というシビックハッカーも多く、その影響力は台湾のデジタル人材育成に貢献している。

台湾はなぜこのような人物をデジタル大臣に起用できるのだろうか。

【関連記事】孤軍奮闘する台湾を今こそ支援せよ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中