最新記事

台湾の力量

北京ではなく南へ 台湾・蔡英文が加速させる「新南向政策」の展望

COVID-19 AND TAIWAN’S FOREIGN POLICY

2020年8月5日(水)12時40分
江懷哲(台湾アジア交流基金研究員)

こうして見ると、コロナ危機は短期的には台湾経済にマイナスの影響を与えつつも、中長期的には「南向政策」を正当化し、その基盤を強化すると思われる。台湾政府は今後、高付加価値な製造業の島内復帰を促す一方、中・低レベルの製造業については東南アジア各国への移転を進め、欧米諸国では技術面・開発面で提携・協力するための拠点整備を急ぐことになるだろう。

ちなみに台湾は、これまでのところコロナウイルスの爆発的な感染を防ぐことに成功しており、その取り組みは国際的にも高く評価されている。自信が付いたし余裕もできたから、今は大々的な「マスク外交」を展開し、南の諸国にも大量のマスクを提供している。自治体や企業が連携してタイに1万5000着の防護服を寄付した例もある。

それだけではない。台湾の現地代表部や医療機関がオンラインで自分たちの経験を伝える取り組みも行われている。台湾貿易センターによれば、台湾の成功大学病院とインドの医療従事者1万4000人の人材交流も決まっている。

各国の要望に応じて、台湾貿易センターは感染防止製品の生産ネットワークづくりを提案してもいる。各国の研究機関とコロナ対策関連の知識を共有し、人材や資源の共有にも力を入れている。

台湾政府も4月中旬にニューヨーク・タイムズ紙に全面広告を出して「台湾は手助けできる」と宣言し、台湾の積極的な役割と技術力を懸命にアピールしようとしている。

しかし、必ずしも正当に評価されているとはいえない。例えばシンガポールの政府系投資機関テマセック・ホールディングスのホー・チンCEO(リー・シェンロン同国首相の配偶者でもある)はソーシャルメディアに「台湾、シンガポールに医療マスクを寄付」という見出しのニュース記事をアップした上で、「Errrr......(えーと......)」というコメントを添えた。

しかも数日後に、ホーは蔡を揶揄するような別の画像を載せた。これで騒ぎは大きくなり、慌てたホーは「台湾の総統に謝らねばならない。償いをしたい」という謝罪のメッセージを出した。おかげで外交問題に発展する最悪の事態は避けられたが、台湾の進めるマスク外交には水が差された。

中国を意識しながら舵取りを

中国政府の存在も影を落とす。去る4月、台湾で働くフィリピン女性がネット上で、自国の大統領ロドリゴ・ドゥテルテのコロナウイルス対策を批判した。すると大統領の広報官が暗に彼女の国外退去を求める声明を出し、「決めるのは台湾と中国だ。何しろ台湾は中国の一部だから」と付け加えた。この発言には台湾政府が怒り、台湾にあるマニラ経済文化代表部(事実上のフィリピン大使館)の代表も抗議した。

【関連記事】台湾の力量:コロナ対策の原動力はスピード感、透明性、政治への信頼
【関連記事】台湾IT大臣オードリー・タンの真価、「マスクマップ」はわずか3日で開発された

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランとの核協議、これまでのところ順調=バンス米副

ビジネス

米フォード、メキシコ生産車を値上げへ トランプ関税

ワールド

週末の米中高官協議は「交渉の始まり」、 進んだ段階

ビジネス

ディズニー、1─3月業績は予想上回る 動画配信と米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 10
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中