最新記事

暴露本

トランプ姪の暴露本は予想外の面白さ──裸の王様を担ぎ上げ、甘い汁を吸う人たちの罪

How He Gets Away With It

2020年7月29日(水)17時40分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

著者メアリー・トランプが糾弾するのは、ドナルドを温室栽培した人たちの罪だ Jonathan Ernst-REUTERS

<メアリー・トランプが罪深いと告発するのは叔父ドナルドではなく、彼の暴走を許し続けている人たち。本書タイトル「うんざりなのにやめられない」の真意とは>

いわゆる「ドナルド・トランプ本」は掃いて捨てるほどある。どれも真偽の程は別として「読めばあきれる」話ばかりだが、本人の姪メアリー・トランプの書いた本書『トゥー・マッチ・アンド・ネバー・イナフ(Too Muchand Never Enough)』(7月14日刊)はさすがにひと味違う。直訳すれば「うんざりなのにやめられない」みたいな意味で、副題では現職のアメリカ大統領を「世界で最も危険な男」と決め付けている。

あまたのトランプ本に目を通した人なら、この男の女性関係やビジネス面の醜聞には「うんざり」しているはず。彼がSAT(大学進学適正試験)で替え玉を使っていたとかの話は初耳かもしれないけれど、彼(現職大統領)が常習的な嘘つきで、彼の父親も同じくらい「勝つためなら手段を選ばない」男だったことはとっくに知っている。

それでもメアリーの著書は一読に値する。ドナルド・トランプという男が救い難いだけでなく、彼を支えてきた人間たちも同じくらい救い難く、罪深いと告発しているからだ。

著者は臨床心理学の博士号を持っている。だから医学的な診断基準に照らして、ドナルドが病理的なナルシシストであることを指摘できるし、さらに反社会的人格障害や反社会病質、依存性人格障害に相当することも指摘できる。学習障害もありそうで、それが彼の情報処理能力に悪影響を及ぼしている可能性もあるという。

こうした診断の当否は専門家の判定に委ねるしかあるまい。しかし、著者の論点は別にある。ドナルドが修復不能なほど壊れているという話には冒頭でさらっと触れるのみで、その先では彼を支持する有権者や彼を頂点にまで押し上げた人たち、彼の取り巻きや崇拝者たちの心理に目を向けている。ここが類書と違う点だ。

「トランプ依存症」の人々

つまり著者メアリーにとって、あまたのトランプ本がたどり着く結論(ドナルドは壊れている)は議論の始まりにすぎない。真の問題は、誰がなぜ、いかにしてドナルドを「世界で最も危険な男」に仕立てたのかだ。前書きには、こうある。「なぜ彼が今の彼になったのかではなく、どう見ても適性を欠いている男がいかにして、いくら失敗しても勝ち上がることができたのかを理解しようとする試みは、今までほとんどなかった」

その空白を埋めるために、彼女は筆を執った。巻頭にはビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』の一節が掲げられている。いわく、「魂が暗闇に捨て置かれれば、罪はなされる。罪深きは罪を犯す者ではない、そこに暗闇を生み出す者だ」と。

【関連記事】劣勢明らかなトランプに、逆転のシナリオはあるのか?
【関連記事】米民主主義の危機 大統領選で敗北してもトランプは辞めない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中