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ロシア諜報機関の汚れ仕事を担う、「29155部隊」は掟破りの殺し屋集団

Audacious but Sloppy Russian Spies

2020年7月8日(水)11時20分
エイミー・マッキノン

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アフガニスタン戦争で作戦行動中に敵の仕掛けた手製爆弾で負傷した仲間を支える米兵 BOB STRONG-REUTERS

べリングキャットは旅客機の運航データや搭乗客名簿、ロシア当局の出入国管理データなどを精査して、セルゲイエフが2012年から2018年にかけて、ウクライナを含む欧州諸国や中央アジア、中東の各国に頻繁に出入りしていたことも突き止めている。ただし、その目的は不明だ。

「こちらが知り得るのは彼らが失敗した事例のみ」だと言うのは、ベリングキャットで東欧地域を担当するアリク・トーラー。当然のことながら、成功した事例は闇から闇へと葬り去られてしまう。

それでも一定の調査が可能なのは、ロシアでは盗み出したデータや漏洩情報が堂々と売買されているからだ。「基本的にはどんな情報でも買える。ゆがんだ事実だが、今のロシアは極めて透明性が高いと言える」。そう語るのはイギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティだ。

ロシアに甘いトランプ

ロシアが米兵殺しに加担しているとの情報を、トランプ政権は基本的に否定する。だが情報当局の元幹部らによると、大統領向けのPDBに含まれる情報の信頼性は極めて高い。前出のケンドールテイラーも、「PDBに記載されるのは複数の情報機関の見解が一致し、かつ精度が高い情報のみ」だと言い切る。

何十年もアメリカと戦ってきたタリバンが、今さら米兵殺しに金銭的な報酬を求める動機は理解できない。しかし実際に懸賞金を払ったとすれば、ロシアはアメリカの権益を直接的に脅かす方向へ舵を切ったことになる。

ロシアがアメリカの政界を一段と混乱させる目的で、わざと懸賞金の支払いが発覚するように仕組んだ可能性も否定できない。ただしケンドールテイラーはそうした見立てに懐疑的で、GRUは目的のためなら手段を選ばない組織だと指摘する。

ロシアの秘密部隊は反政府勢力や亡命者などを次々に標的としてきた。しかしアメリカ人の命だけは、少なくとも今までは狙わなかった。

「アメリカ人に対しては常に慎重だった。アメリカ人を死なせれば高くつくのを承知しているからだ」と言うのは前出のガレオッティ。一方で米軍も、シリアではロシア兵を殺さないように「最大限の努力」をしていたとケンドールテイラーは言う。

トランプが情報機関の報告を握りつぶしたことには、与党内部にも批判がある。7月1日には共和党のチャールズ・グラスリー上院議員が議会で、ロシアへの「強い対応」が必要だと述べている。

ちなみにトランプは、イランが米軍の小型無人機を撃墜したときは激高して報復攻撃の寸前まで行った。イラクでアメリカの民間人が殺されたときは、無人機を飛ばしてイラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官を殺害している。しかしロシアにだけは、なぜか甘い。

From Foreign Policy Magazine

<2020年7月14日号掲載>

【関連記事】米兵の首に懸賞金を懸けていたロシアの「29155部隊」とは

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