最新記事

難民

新型コロナウイルスで棚上げされた欧州難民危機

Refugee Lives on Hold

2020年5月5日(火)10時50分
エムラン・フェロズ

難民は入国前の待機も屋外で行うしかない(ギリシャのレスボス島) ELIAS MARCOU-REUTERS

<当局に居場所を知られるのが怖くて病院にも行けない──新しい国に渡っても別の深刻な問題が彼らを襲っている>

アフガニスタン難民であるエスマト・モハマディ(22)は、第2の故郷であるドイツ南部のシュツットガルトが新型コロナウイルスの危機に見舞われた際の状況に思わず苦笑した。スーパーマーケットは大混雑で、警備員が客を見張っている。「本当に戦争でも起こったら、この人たちはどうするのだろうと思った」と、数々の修羅場をくぐり抜けてきたモハマディは言う。

モハマディのような難民にとって、新型コロナウイルスの感染拡大には都合のいい部分もある。アフガニスタン人は難民集団としては世界最大規模であり、彼らは最近までドイツからたびたび本国に強制送還されていた。

だが現在、この措置は中止されている。人道的観点からではない。大きな理由は、航空便の大半が運休になったことだ。アフガニスタンも自国に新型コロナウイルスの問題を抱えているため、ドイツ政府に自国民の強制送還をやめるよう依頼した。

いまアフガニスタンの大部分の地域に、新型コロナウイルスの感染が広がっている。4月24日の時点で感染者は1350人以上、死者は43人とされるが、専門家のみるところ実際の人数ははるかに多い可能性がある。

一方で多くのアフガニスタン難民は、強制送還を一時的に免れても、自らの立場の弱さをこれまで以上に痛感している。医療サービスを受けることは、ほとんど期待できない。ドイツをはじめ主要ヨーロッパ諸国の医療制度が、限界に近づいているためだ。

国境なき医師団(MSF)によると、ヨーロッパにいる難民は特に新型コロナウイルスの影響を受けやすい。「彼らの多くは過密状態の宿泊施設で暮らしている」と、MSFの人道問題専門家オレリー・ポンテューは指摘する。「特にダブリン条約に基づいてEU内で最初に入国した国に送還される恐れがある不法移民や難民は、病院を受診すれば拘束されるのではないかという不安から、新型コロナウイルス感染症の疑いがあっても症状を報告しない可能性がある」

難民の大規模クラスター

ギリシャのレスボス島にあるモリア難民センターでは、混乱と絶望の中で1万9000人以上が足止めされている。彼らの大半はアフガニスタンやシリア、エリトリアなどのアフリカ・アジア諸国の出身者だ。このセンターは最大3000人を収容するために建設されたが、現状は目を覆うばかりだ。

ドイツの緑の党の議員で欧州議会議員のエリック・マルカルトは、レスボス島を何度か視察した。電話取材に応じた彼は「この島で起こっていることは、ドイツも含めたヨーロッパの恥だ」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:替えがきかないテスラの顔、マスク氏後継者

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員

ビジネス

仏ラクタリスのフォンテラ資産買収計画、豪州が非公式

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中