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震災、台風と試練乗り越え「復興の火」運ぶ三陸鉄道 その行き先は......

2020年3月24日(火)19時00分

こうした状況を背景に、新幹線や在来幹線、都市鉄道以外の鉄軌道路線を指す全国の「地域鉄道」は、厳しい経営を強いられている。国土交通省によると、2000年以降の廃止路線数は41に達し、残る96社も7割超が経常赤字を計上している。

政府は地方の人口減に歯止めをかけるべく、14年に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定。5年間で地方経済を活性化し、東京へ集中する人の流れに歯止めをかけようという算段だった。

しかし5年後の19年、東京圏への人口流入数と流出数の均衡を掲げた目標に対し、実績は14万8783人の流入超だった。計画を策定した14年の11万6048人をも上回る人々が東京近郊へ押し寄せ、地方の人口減は一段と加速した。

地域活性化策を様々な連携自治体と実践している大正大学地域構想研究所の中島ゆき主任研究員は、「移住を最終的に後押しする理由の多くは、起業も含めた『しごと』。ITとマーケティングを基軸に、様々な『しごと』を創出していくことが、今後の地域には必須」と語る。

風化する震災の記憶

三陸鉄道は、NHKの朝のテレビドラマ「あまちゃん」ブームもあり、震災後に乗客が一時上向いた。しかし、ここ数年はまた伸び悩んでいる。

今期は様々なイベント開催に全線開通の上乗せ分が加わり、「昨年10月に台風が来るまでは、前年比倍の乗客数だった」(中村一郎社長)ものの、その後の運休などが響き、26年連続の経常損失がほぼ確実な情勢だ。

がれきが取り除かれ、建物が再建され、沿線の整備が進めば進むほど、震災の痛手を刻み込まれた生々しい街の姿は、住民の記憶に残るのみとなる。三陸鉄道の営業報告書には「経年変化や震災体験の風化で(旅行団体は)減少が顕著」と被災地の忸怩(じくじ)たる思いが記されている。

釜石市内の沿線で大漁旗を抱えてきた女性は、「ともに育ってきた三鉄の姿は、自分たちと重なって見える」と話す。「沿線は三鉄に賭けている。がんばれ三鉄、という言葉は、実は自分達に向かって言っているのかもしれない」

(編集:久保信博)

基太村真司

[宮古市(岩手県) 24日 ロイター]


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