最新記事

感染症

感染力でみる新型コロナの脅威──ワクチンができるまで「集団免疫」の予防策はとれない

2020年3月3日(火)14時40分
篠原 拓也(ニッセイ基礎研究所)

ただし、2009年に流行した新型インフルエンザは、世界全体でみれば死亡者数は多かったが、日本での影響の広がりは限定的だった。これは、感染が拡大しつつあった大阪府や兵庫県で大規模な学校休業(大阪府では、全域で高校・中学を全校1週間休業)を実施したことをはじめ、市民の間で季節性インフルエンザ対策と同様の健康管理(うがいや手洗いなど)が徹底されていたためとみられている。

過去のコロナウイルス肺炎では日本国内の感染例はなかった

過去にも、コロナウイルスによる肺炎が流行したことがある。2002年に流行開始して2003年に中国を中心に猛威を振るったSARS(重症急性呼吸器症候群)と、2012年にサウジアラビアで流行が始まり2015年には韓国にも飛び火したMERS(中東呼吸器症候群)だ。

どちらも、コロナウイルスが感染の原因となっている。このウイルスは、電子顕微鏡で撮影すると、太陽のコロナのような形をしているために、このような名前で呼ばれている。

SARSとMERSでは、それぞれ774人、858人(2019年11月時点)の死亡者が出ている。(WHOのサイトより) SARSは2003年に終息宣言が出されたが、MERSは現在も中東地域で流行が続いている。いずれも、日本国内での感染例はない。だが、今回の新型コロナウイルスでは、世界全体でそれらを上回る死亡者が発生している。日本国内でも、すでに多数の感染者、死亡者が出ている。中国や東アジア地域をはじめ、世界各地で感染拡大が進行しつつあり、パンデミックとなる懸念が強まるばかりだ。

感染症ごとに異なる「感染力」の見方

感染症の感染力を表すために、「基本再生産数」という概念がある。ある感染症にかかった人が、その感染症の免疫をまったく持たない集団に入ったときに、直接感染させる平均的な人数を表す。

たとえば、この値が1より大きいと、平均的に、1人の患者から1人よりも多くの人に感染するため、感染は拡大する。逆に、この値が1より小さいと、1人未満にしか感染しないので、感染はいずれ終息する。そして、ちょうど1ならば、拡大も終息もせず、その地域に風土病のように根付くことを意味する。

感染症ごとに、基本再生産数は異なる。ある研究によると、インフルエンザは2~3、SARSは2~5、MERSは0.8~1.3、などとされている。

Nissei200302_2.jpg

では、今回の新型コロナウイルスの基本再生産数はどうか。WHOが暫定的に出した値は1.4~2.5だ。しかし、香港や英国の大学チームの見解によると、3.3~5.5の幅で推定値が示されたとの報道もある。今までに経験したことのないスピードで感染が広がるかもしれない、との専門家の見方も出ている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中