最新記事

日本経済

東京五輪延期で、経済押上げ効果「2兆円程度」が剥落か

2020年3月27日(金)10時50分
矢嶋 康次、鈴木 智也(ニッセイ基礎研究所)

五輪延期で深刻な影響が予想されるサービス業、関連グッズ販売 REUTERS/Naoki Ogura

<感染症の世界的拡大によってオリンピックが延期となり、見込まれた経済効果が先送りされることに。企業活動・雇用への悪影響から経済を再び軌道に乗せるまでの優先順位は?>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年3月24日付)からの転載です。

1──国際世論は、一気に東京五輪の開催延期に傾く

3月22日、国際オリンピック委員会(IOC)は臨時理事会をテレビ会議で開催し、東京五輪の延期を含めた検討に入るとの方針を示した。事実上の延期決定だ。今後、IOCは日本政府や大会組織委員会などと協議したうえで、4週間以内に開催の可否について結論を出す方針だという。これを受けて、23日の参院予算委員会で、安倍晋三首相が延期の可能性について初めて言及するに至った。また、小池百合子東京都知事も、開催延期を容認する姿勢を示すなど、東京五輪を巡る環境は一変した。

3月24日12時現在、新型コロナウイルスの感染は世界168の国と地域に拡大し、感染者数は38万1,293人に達するなど猛威を振るっている1。欧州のイタリアやスペインなどでは、爆発的に患者が急増する「オーバーシュート」が起きた状態にある。このような現状を踏まえれば、東京五輪が中止ではなく、延期との判断に落ち着こうとしていることには、まだ救いがあると言える。

当研究所の試算では、東京五輪は2014年度から2020年度までの7年間に約10兆円(国内総生産の2%弱、年平均では0.2%強)、国内経済を押し上げる効果があると見込んでいた。2020年度単年では、まだ多く見積もって2兆円程度が実現していない。五輪開催が延期されれば、この効果(需要)が先送りされることになる。すでに関連施設の建設投資などで、効果はかなり顕在化しているとは言え、観光業やサービス業、グッズの製造販売などで影響が大きく出て来そうだ。

2──五輪という経済の「つっぱり棒」

今後、東京五輪の開催延期で、企業が事業縮小や倒産などを余儀なくされれば、その悪影響は雇用へと及ぶだろう。特に、今回のような公衆衛生上の緊急事態では、経済活動の自粛や信用不安の影響がいつまで続くのか見通せない。既に中小企業の資金繰りや企業業績は悪化しており、どこまで耐えられるのか、非常に心配な状況になりつつある。また、雇用が不安定な非正規雇用者は、2008年のリーマン・ショック以降に469万人増加し[図表1]、東京五輪の開催地である東京圏内では151万人増加している。単純に、この151万人の非正規雇用者が一斉に失業したと仮定してみると、失業率は足元の2.4%から4.6%まで上昇することになる。オリンピック需要を見込んで一定の「人員」を積み増してきた企業もあるはずだ。今後、そのような人たちの雇用が危うくなる可能性も出てくる。

Nissei200326_Olympics1.jpg

―――――――――――
1 米ジョンズ・ホプキンス大学「Coronavirus COVID-19 Global Cases」より。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

イスラエルのガザ市攻撃「居住できなくする目的」、国

ワールド

米英、100億ドル超の経済協定発表へ トランプ氏訪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中