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日本経済

東京五輪延期で、経済押上げ効果「2兆円程度」が剥落か

2020年3月27日(金)10時50分
矢嶋 康次、鈴木 智也(ニッセイ基礎研究所)

また、東京五輪の開催延期は、国内の経済像を複数年に渡って変化させる可能性もある。一例として、一国の経済全体の需給バランスを示す指標である「GDPギャップ」を見てみたい。GDPギャップは、プラス(需要が供給を上回っている状態)を維持しているときには、経済が好調で物価に上昇圧力が掛かった状態を示す一方、マイナス(供給が需要を上回っている状態)のときには、設備や人員に過剰感が生まれて物価に下押し圧力が掛かった状態を示す。

内閣府の発表によれば、2019年10-12月期のGDPギャップは、4四半期ぶりにマイナス転換して▲1.5%になったという。これは消費増税などの影響で、実体経済が急速に悪化してきたことを意味している。さらに今後は、新型コロナウイルスの影響が加わることになる。民間エコノミストの経済成長率平均予測値(ESPフォーキャスト3月調査)をもとにGDPギャップを延伸してみると、2020年1-3月期には▲2.5%のギャップが生じる[図表2]。この調査時点では、東京五輪の開催延期は織り込まれておらず、年後半にギャップが縮小していく絵姿となっているのは、その頃にコロナ感染が最悪期を脱し、東京五輪で経済が持ち直すとの見立てがあったからだ。東京五輪の開催延期は、経済予測を支えていた、言わば「つっぱり棒」を外すことを意味する。

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めが掛からず、開催延期が予測に織り込まれることになれば、GDPギャップの落ち込みは足元の数字よりも大きくなり、エコノミストの予測も「その先なかなか改善しない」との悲観に傾いてしまうのではないだろうか。

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3──優先順位は、(1)感染収束、(2)経済立て直し、そして最後に、(3)東京五輪

東京五輪の開催延期が決まったとしても、開催時期や会場確保、代表選手の選考からチケットの払戻しに至るまで、課題は山積している。また、この開催延期というショッキングな出来事は、人々の見方や行動にも変化を及ぼすだろう。

国内外で悪条件は重なるが、東京五輪の開催は実現しなければならない。そのためには、国内の感染を収束させることが最低条件となる。国内での感染拡大防止と現金給付などによる国民生活の下支え、資金繰り支援策の強化による倒産抑止と失業者の急増回避。緊急避難的な支援策を急ぎ拡充する必要がある。そして、新型コロナウイルスの災禍を収束させた後には、消費税引き下げやキャッシュレス還元拡充などで需要を喚起し、経済を再び力強い成長軌道に回帰させる必要がある。それら万策を尽くしたうえで、最後に来るのが東京五輪の実現だ。やるべきことは多いだろうが、優先順位に沿って、懸案に対処していくことが肝要である。

nissei.jpg[執筆者]
矢嶋 康次 (やじま やすひで)
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部 研究理事
チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

SuzukiTomoya_Profile.jpeg[執筆者]
鈴木 智也 (すずき ともや)
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部 研究員・経済研究部兼任

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