最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルスに漢方薬が有効? 中国全土である薬が完売した訳

SELLING SNAKE OIL

2020年2月12日(水)18時00分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

北京の首都医科大学で漢方薬を調合(2011年) David Gray – REUTERS

<怪しい情報に要注意。非科学的な伝統医学を主体とする中国医療は、ウイルス対策の妨げになりかねない。本誌「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集より>

中国全土で新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、国営の新華社通信は不安におののく国民に向けて、漢方薬が有効だという情報を流した。ウイルスに効果があるとされたのは双黄連口服液という薬で、すぐに全国の薬局で売り切れた。
20200218issue_cover200.jpg
新華社の情報に説得力があったのには理由がある。上海薬物研究所と武漢ウイルス研究所の研究が、中国の医療制度の主体である伝統中国医学に基づいて、この漢方薬にお墨付きを与えたとされたためだ。

これにはすぐに批判が噴出し、他の国営メディアにはこの薬に魔法のような効果はないと警告したところもある。だがウイルスとの闘いのなかで、伝統中国医学は複雑な意味合いを持っている。

今回のウイルス禍の震源地である武漢には、既に漢方の専門医125人が派遣された。愛国的なエセ科学とでも言うべきものを後押しする姿勢を示せば、中国政府は医療制度を損ない、ウイルス危機への対応を誤る恐れがある。

双黄連の原料はスイカズラ、レンギョウなどで、伝統医学と言っても処方ができたのは1960年代。下敷きになっているのは前近代的な中国医学と、漢方医が過去数世紀の間に蓄積した薬草研究を交ぜ合わせた非科学的な理論だ。双黄連が気道疾患に効く可能性を示す研究はいくつかあるが、大規模なウイルス感染に効果があるという確かな証拠はない。

伝統中国医療は大規模なビジネスになっている。いま処方されている漢方薬は薬草の専門家などが調合したものではなく、工場で大量生産された医薬品だ。中国の漢方薬市場の規模は年間450億ドル相当に達する。

公衆衛生上の危機の際に民間療法が流行するのは、どんな国でもあることだ。だが中国で伝統医療が果たす役割には、かなりの危険がある。西洋医学と一線を画す医療を構築するという考えが生まれたのは1950年代。中華人民共和国が成立して間もなく、毛沢東の号令によって大きく発展を遂げた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ネット中立性規則が復活 平等なアクセス提供義務

ワールド

ガザ北部「飢餓が迫っている」、国連が支援物資の搬入

ビジネス

午前の日経平均は151円高、米株先物しっかりで反発

ワールド

英国民200万人がコロナ後遺症=国家統計局調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中