最新記事

金融緩和

金融緩和競争は激化へ、厳しい判断を迫られる日銀──9月決定会合の予想と市場の反応

2019年9月10日(火)16時00分
上野 剛志(ニッセイ基礎研究所)

日銀が各国の緩和競争についていけないことが知れれば、円買いで円高になるリスクがある Nuthawut Somsuk-Reuters

<今週から来週にかけてECBとFRBは相次いで金融緩和を行うとみられている。だが、続く日銀には追加緩和余地が乏しい。かといって「緩和負け感」が鮮明になれば円高が進みかねない>

世界的な金融緩和競争の色彩が強まってきている。7月末のFRBによる約10年ぶりの利下げに追随する形で、8月にはニュージーランド、メキシコ、インド、タイなど多くの国で続々と利下げが実施された。さらに今月には、ECB(12日)が金融緩和に舵を切り、FRB(18日)も追加利下げに踏み切ることが、市場で確実視されている。

苦境に立たされる日銀

こうした各国、とりわけ欧米の金融緩和によって日銀は苦境に立たされている。これまで各国の金融緩和観測の高まりに伴って海外金利の低下が進み、内外金利差の縮小を通じて円高が進んできたためだ。円高は輸入物価の押し下げや輸出の下振れなどを通じて物価の抑制に作用する。

足元では米中協議の再開期待から多少円安方向に戻してはいるものの、欧米中銀の会合が始まる来週以降は警戒が必要になる。世界的な金融緩和競争の中、欧米中銀に続いて19日に政策決定が試される日銀の「緩和負け感」が鮮明になることで、円高が進むリスクがあるためだ。

Nissei190910_1.jpg

FRBやECBと比べて、日銀の追加緩和余地が乏しいという点は市場においてほぼ共通認識になっている。金融緩和の縮小・停止や金融引き締めの段階を経ている欧米中銀と異なり、日銀は2013年以降長期にわたって一貫して金融緩和を続けてきたためだ。緩和の副作用として銀行収益が大きく圧迫されており、金融システムの不安定化や金融仲介機能停滞のリスクも燻っている。

従って、日銀としては出来ることなら追加緩和を避けたいところだと思われるが、欧米が緩和に動くなかで日銀だけ取り残されれば、円高の引き金を引くことになりかねない。

追加緩和の選択肢と影響

ここで、黒田総裁の発言内容1などを参考に追加緩和の主な選択肢を改めて考えてみると(外債購入やヘリマネなど極端な手段を除く)、(1)フォワードガイダンス強化、(2)長期金利許容レンジの拡大(下限引き下げまたは撤廃等)、(3)マイナス金利深堀り、(4)長期金利目標の引き下げ、(5)国債買入れ増額、(6)ETF買入れ増額、(7)その他資産購入(財投債・地方債等)という手段が挙げられる。

これらは技術的には可能だが、それぞれの効果と副作用・コスト・リスクを考えた場合、「大きな効果が見込めて、副作用・コスト・リスクの小さい手段」はもはや存在していないと思われる。逆説的に言えば、そのような手段が残されていたのであれば、これまで出し惜しみせず、物価目標の早期達成のために既に導入されているはずだ。

――――――――
1 「緩和手段については、短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速等、様々な対応があり得る」(2019.7.31総裁記者意見より)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師、攻撃後初めて公の場に 

ワールド

ダライ・ラマ「130歳以上生きたい」、90歳誕生日

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中