最新記事

金融緩和

金融緩和競争は激化へ、厳しい判断を迫られる日銀──9月決定会合の予想と市場の反応

2019年9月10日(火)16時00分
上野 剛志(ニッセイ基礎研究所)

なお、金融緩和策として最もオーソドックスな手段は「金利の引き下げ」に関するもの(マイナス金利深堀り、長期金利目標引き下げ、国債買入れ増額)だが、既に過去最低レベルにある銀行貸出金利をさらに圧迫し、金融システムの不安定化や金融仲介機能停滞のリスクを高める恐れが強い。また、2015年以降に鮮明になったように、金利感応度が高い不動産向け貸出に資金が集中し、不動産市場の過熱や歪みを助長する恐れもある。

Nissei190910_2.jpg

日銀金融政策の見通し

以上の点を踏まえ、次に日銀による今月の政策決定の見通しを考える。日銀の決定内容は、欧米中銀の金融緩和を受けた直前の市場動向によって変わり得るが、メインシナリオとして、概ね安定した(大幅な円高・株安が進んでいない)市場環境にあることを前提とすれば、金融政策を多少変更し、緩和色を漂わせる程度の変更がなされると見ている。具体的には「金利に関するフォワードガイダンスの延長」と「長期金利許容レンジの拡大(下限引き下げまたは撤廃等)」が決定される可能性が高い。

既述のとおり、今回、欧米が金融緩和に踏み切るなかで日銀が全く動かなければ、「緩和負け感」が鮮明になり、円高の引き金を引くことになりかねない。一方で、現段階で本格的な追加緩和に踏み切れば、副作用を強めるうえ、今後、世界経済が失速したり、円高が急激に進んだりした場合の対応余地がその分無くなってしまうためだ。

Nissei190910_3.jpg

その点、現在、「当分の間、少なくとも2020年春頃まで」とされている現行金利水準維持に関するフォワードガイダンスを「当分の間、少なくとも2020年末頃まで」などに延長することには殆ど実害がない(効果もないが)。そもそも、今後の経済・物価情勢を鑑みれば、2020年内に金利を引き上げることは極めてハードルが高い。実際、黒田総裁も現行金利水準が維持される期間について、「2020 年の春より長くなる可能性も十分ある」との発言を頻繁に行っている。

また、長期金利許容レンジについては、昨年7月に柔軟化が行われた際に、「プラスマイナス0.1%の倍程度の幅を念頭にする」(つまり、▲0.2%~0.2%程度)とされたが、最近の長期金利は▲0.2%を明確に下回って推移している。日銀が▲0.2%を下限として死守するために国債買入れを本気で縮小すれば、金融緩和の後退と捉えられて円高が進む恐れがあるため、半ば放置されている状況にある。そして、米金利の大幅な回復が当面見込めない以上、日本の長期金利が早期に上記レンジ内に戻る可能性も低い。従って、今月の決定会合において、長期金利許容レンジの拡大(下限引き下げまたは撤廃等)が行われたとしても現状の追認に過ぎないうえ、説明を加えることで多少の緩和的色彩を加えることも可能になるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州金融業界向け重要通信技術提供者、EUがAWSな

ワールド

中国首相、ロシア大統領とモスクワで18日に会談=新

ビジネス

米政府系住宅金融2社の株式売却、短期的に不可能=ア

ワールド

MI5、中国スパイがヘッドハンター装い英議員に接触
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中