最新記事

インタビュー

「移民は敵ではない、ブラック労働に苦しむ日本人が手を繋ぐべき相手だ」

2019年4月18日(木)13時30分
小暮聡子(本誌記者)

――移民をめぐる問題について取材を始めてみたら、興味を持ったということ? 単純に、もっと知りたくなったとか。

うーん、なんですかね。うーーーん(悩む)。

先ほど話した「移民って、全員こうだよね」というステレオタイプみたいなものって、端的に言って間違っているじゃないですか。正しい情報ではないというか。「正しく」、というと語弊があるのだが、僕は「ちゃんと分かりたい」というのは常にある。

ちゃんと理解したい、という気持ちが何事に対してもあって、ちゃんと理解しようと思ったときに、例えば勉強しようと思うときって、それこそ統計や制度を勉強するとか客観的なデータや情報を見ていくというイメージだと思うのだが、僕の中ではそれだけではない。

それぞれの人が、そのときこういう風に思って、だからこうなっているのかなとか、あのときこういう考えに陥ったからこうなっちゃったのかなとか、そういう主観性みたいなものも、究極的には知り得ないのだが、「ちゃんと分かる」ということの一部としてあると思っている。

貧しい状況の人が、なんでお金がないのに無駄遣いしてしまったのかとか、パチンコで全部使っちゃったとか、それを「貧困でバカで自己責任だ」みたいな捉え方は、簡単ではあったとしても「正しく分かっている」ということではないと強く感じている。

なぜ今、目の前にいるこの人が自分で自分を追い込むようなことをしてしまったのかということを、ちゃんと分かろうとすると、こう......想像せざるを得なくなる。本当にお金がないということ自体は経験したこともあるが、自分には、お金がないのにパチンコに全部突っ込んじゃったという経験はないので。

でもある特定の経験がないから分からない、何も理解できないということでもないと思う。なくても完全に分かりますと言うつもりももちろんないけれど、当事者ではなくても想像することはできる。想像は常に間違っているかもしれないけれど、想像を諦めてとりあえずステレオタイプでよしとするよりは、いい態度だと思う。

僕は全ての社会問題に対して当事者であることなんて絶対にできないと思っているし、当事者性みたいなものを捏造して、自分は同じ体験をしているからあなたと同じことが分かりますよと言うつもりは全然ない。

だから、分からないこと、自分が経験していないことを目の前の人が経験していることに対して、できるだけ謙虚に想像させていただいているという......そういう感じかもしれない。それで、想像が間違っていたらすみません、直します、と。その態度はすごく大事だと、少なくとも僕自身は思っている。ただ、どうしても想像が及ばずに人を傷つけてしまうこともある、それを引き受けることも大切なことだと思う。

――見て見ぬふりをするとか、想像しないという選択肢もあるなかで、想像してみていいことって何だろう。

僕の場合は、自分と違うものに対しての関心があるのだと思う。それは道徳的な意味ではなくて、単に知りたい、分かりたいという気持ち。何でもそうで、子供から大人になっていくうちに、世の中のことを知りたいとか、友達のことを理解したいとか、そうやってどんどん広い世界を知っていって、自分の国以外のことを学ぶとか、いろいろなことを知ってきたのだと思う。

自分が過ごしてきたこの人生というのは他の人とは違うし、世界に75億個(の人生が)あるんだなということへの驚きがある。あとはやはり、ひとりひとりや社会について知っていくことに、究極的には喜びがあると僕は思っていて。それに尽きるのかなと思う。

自分の中にある他者への関心というのにちゃんと応えようとすると、人の話を聞くときは想像力をもって聞くことになると思うし、こういう本を作るときにも、できるだけ事実を突き詰めていくことがとても大事だと思う。

他者に対する関心に対して、ありもののステレオタイプでとりあえず応えるということは、ファストフード的で最も楽ではある。食欲にマック、という感じで。でもそれだと実際に自分の関心に対して応えていないと思うし、単純に、他者に対して誠実ではないと思う。

【関連記事】永住者、失踪者、労働者──日本で生きる「移民」たちの実像

mochizukiinvu190418-book.jpg『ふたつの日本――「移民国家」の建前と現実』
 望月優大 著
 講談社現代新書


ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減との報

ワールド

トランプ氏、USMCA離脱を来年決定も─USTR代

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中