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資本主義

「給与所得者の保護政策はどの国でも後退している」ジグレール教授の経済講義

2019年3月7日(木)17時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

例としての2つ目の数字は......?

――これは2017年の数字だが、世界の億万長者の上位にいる85人が所有する財産は、貧困層にいる世界の35億人分をあわせたものと同じだということだ。それについて、オックスファム・インターナショナルの事務局長ウィニー・バイアンイマがこんなふうに皮肉っている。

「85人という、バス1台に乗れるほど少数の億万長者が、世界人口の半分の貧困層と同じくらいの財産を独占している」とね。

おじいちゃん、大金持ちと貧しい人のあいだの溝を、少しずつでも埋めることはできないの?

――いや、私は逆に広がるのではないかと考えている......。南半球の国々では、毎日のように死人の山ができている。大金持ちと、その他大勢の貧困層との格差は大きくなるいっぽうなのだ。

世界の上位にいる大金持ち562人の所得は、2010年から2015年のあいだに41パーセント上昇したのに対し、貧困層の30億人の所得は44パーセント減ってしまった。

ネスレ会長との討論では、2人とも完全に対立していたけれど、一回だけ、おじいちゃんが正しいと言われていたわね。格差の話だったけど、ネスレ会長はこれほどの格差は不愉快だと言っていた......。

――よく覚えているね、ゾーラ。彼は正確にはこんなふうに言っていた。

「格差は多くの人にとっては精神的に不愉快なことだ」とね。

しかしいずれにしろ、格差に関しては、私とネスレ会長とは行き違ったままだ。ただ精神的なものや、人々が感じること――それで不快になり、辛い思いをすること――だけでなく、それ以外にも犠牲者が課せられている多くの格差がある。

もっとも目にあまり、かつ弊害のある格差の1つは税金だね。大変な大金持ちは、税金を望み通りの額しか払っていない。どんな税制も、主権国家も彼らに対して抑えがきかないのだ。

というのも、みんなカリブ海や太平洋、その他の世界じゅうにあるタックス・ヘイヴンに籍を置いているからだ。

おじいちゃんが話したいのは「パナマ文書」とか「パラダイス文書」のこと? 最近すごく話題になっているけれど......。

――そうだ。タックス・ヘイヴンでは税金らしきものがない。しかもこれらの国では、法の目をかいくぐる会社や国際的な大企業を設立することができ、ケイマン諸島やバハマ諸島のように、完全な秘密主義を貫いているので、大金持ちはそこにお金を隠すことができる。

こうして巨大な多国籍企業や、裕福な個人は自分たちの財産をいわゆる「オフショア(*)」の会社に置いているのだね。資金の所有者にとっては不透明さが保証されているのだ。

*「沿岸から離れた」、「沖合」、「本土の外」の意味。

しかし、定期的にスキャンダルが勃発する。正義感に燃える調査報道ジャーナリストが、オフショアの会社の複雑怪奇な資金計画を明るみにだすのだ。これらのスキャンダルでは、関わりのある人物のリストが暴露される。ゾーラが言った「パナマ文書」や「パラダイス文書」などもそうだが、ほかにもヨーロッパではルクセンブルクの「ルクス・リークス」というのもある。

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