最新記事

脳とコンピュータ

脳の信号から音声に変換するシステムが世界で初めて開発される

2019年2月8日(金)16時00分
松岡由希子

脳の信号を理解可能な音声に直接変換するシステムが開発された(写真はイメージ)gorodenkoff -iStock

<コロンビア大学の研究チームが、ヒトの脳の信号を音声を再構築する技術を世界で初めて開発し、怪我などで失われた会話力を修復する可能性を持つ画期的なものとして注目を集めている>

脳の信号を理解可能な音声に直接変換するシステムが世界で初めて開発された。人工知能(AI)と音声合成技術を活用し、ヒトの脳の電気活動をもとに、他者が明快に聞き取れる言葉へと再構築するというもので、脳とコンピュータとを接続し、直接情報を授受し合う「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)」の進化に向けた目覚ましい成果として注目されている。

ヒトの脳の聴覚野から音声を再構築する技術

米コロンビア大学ザッカーマン研究所のニマ・メスガラニ博士らの研究チームは、2019年1月29日、オープンアクセスジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」で研究論文を発表し、ディープラーニング(深層学習)と音声合成技術を組み合わせたアルゴリズムによりヒトの脳の聴覚野から音声を再構築する技術について、その詳細を示した。

人間は、言葉を発したり、何か話すことをイメージする際、脳内で特徴的な活動パターンが現れ、他者の話を聞いたり、それをイメージするときにも、特有の信号パターンが現れることがわかっている。

そこで、研究チームでは、人間の会話音声データで学習し、音声を合成するコンピュータアルゴリズム「ボコーダー」を採用。てんかんの治療を受けている患者5名を対象に、言語音を聞いているときの脳での神経活動を測定し、この測定データを「ボコーダー」に与えて、人間の脳の活動を解釈できるよう学習させた。

さらに、これら5名の被験者に0から9までの数字を数える音声を聞かせ、その間の脳の信号を記録したデータを「ボコーダー」に与えたところ、信号パターンを分析し、独自の音声を合成することに成功した。人間が理解可能な音声に変換できる確率は75%で、これまで実施された同様の実験結果を大きく上回るものであった。



──脳の活動パターンを分析して生成した音声。0から9までの数字を読み上げている。

怪我などで失われた会話力を修復する可能性を持つ画期的なもの

この研究成果は、疾病や怪我によって失われた会話力を修復する可能性を持つ手段として画期的なものとして評価されている。

たとえば、「コップ一杯の水が欲しい」と考えると、この思考によって生成された脳の信号をシステムがとらえ、言語音声に変換されるわけだ。メスガラニ博士は「この技術によって、疾病や怪我によって話す能力が失われても、これを修復し、周りの世界とつながる新たな機会をもたらすことができるだろう」と述べている。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脳卒中などによって話すことができなくなった人々にとって、外界とコミュニケーションする力を取り戻すための大きな一歩になるかもしれない。


RT America

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中