最新記事

ケント・ギルバート現象

データで読み解くケント・ギルバート本の読者層

WHAT THE DATA REVEALS

2018年10月29日(月)16時00分
高口康太(ジャーナリスト)

Newsweek Japan

<50万部超というケント・ギルバートの著書の売れ方は「ほかの本と違う」。購入者の年齢層と立地の数値に表れた謎を追う>

※この記事は本誌10/30号「ケント・ギルバート現象」特集より。ケント・ギルバートはなぜ売れっ子になれたのか? 読者は「ネトウヨ」なのか? 本人にもインタビューし、言論界を席巻する「ケント本」現象の深層、さらにはデータから読者層の謎を読み解いた。

新書ノンフィクションの2017年ベストセラー第1位の座を獲得したのは、ケント・ギルバート著『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社、以下『儒教』)だった(出版取次最大手・日本出版販売調べ)。本稿では内容面に関する論評については対象としない。筆者が興味を持っているのはただ一点、「ギルバートの本の読者は誰なのか?」だ。

というのも、電子書籍版を含めて51万部を超えるベストセラーともなれば、周囲に一人ぐらいは読んだ人がいそうなものだが、筆者の周りには誰もいなかった。ほかのベストセラー本ではそうそうあり得ない話だ。この「謎」をどう考えるべきなのだろうか。本稿ではこのテーマについて客観的な統計データから迫ってみたい。

参照したのは、TSUTAYAとTポイント提携書店のPOSデータ分析サービス「DB WATCH」だ(対象期間は2017年1月1日~2018年8月31日に設定)。また、同サービスでこの期間、全国でほぼ同数の売上冊数を記録した河合雅司著『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社、以下『未来』)を比較対象として選んだ。2冊のベストセラー本を同一条件で比較することによって、読者層の違いが明らかになる。

まず検討したのは併買データだ(下表)。『儒教』『未来』を購入した人が、調査期間内にほかにどのような書籍を購入したかを示している。それぞれ上位10冊の顔触れを見てみよう。

magSR181029heibai-2.png

本誌26ページより

『未来』の併買データだが、続編の『未来の年表2』を筆頭に近年のベストセラーがずらりと並んでいる。さもありなんという結果だが、『儒教』のランキングは大きく異なる。続編にあたる『中華思想を妄信する中国人と韓国人の悲劇』などギルバートの著作2冊が入っているほか、同じく保守系作家として知られる百田尚樹の著作が2冊入っている。保守系の書籍はある特定のグループで重点的に売れていることを示唆するデータだ。

都心以外の高齢者が中心

続いて購入者の人口構成を分析した。下の図は『儒教』『未来』そして新書全体について、同調査期間内の購入者の分布をグラフに表したものだ。新書全体で見ると、購入者の平均年齢は50.09歳、最頻値は49歳だ。『未来』は平均年齢49.66歳、最頻値は48歳と新書全体とほぼ同じ傾向を示している。ところが『儒教』は平均年齢が59.69歳と『未来』よりも約10歳高い。最頻値に至っては68歳と、なんと20歳もの差が出た。50歳以上の購入者が占める比率を算出してみると、『儒教』は78.6%。『未来』の50.5%、新書全体の53.1%と大きな開きがある。『儒教』は圧倒的に高齢者に読まれていることが明らかとなった。

magSR181029graph1-2.pngmagSR181029graph2-2.png

本誌27ページより、「新書全体」のグラフは次のページ

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン

ワールド

トランプ氏、ウクライナに合意促す 米ロ首脳会談は停
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中