最新記事

中国

中国が強気のわけ──米中貿易戦

2018年4月9日(月)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

今は両者とも一歩も譲らず、激しいつばぜり合いが続いているが、しかしトランプはツイッターで「対中貿易戦争は起こしていない」とつぶやいている。

トランプはその性格上、次の瞬間にどのように変わるか推測がしにくいでの不確定要素が小さくないが、少なくとも中国は、そのつもりでいる。

日本時間の4月8日21時40分頃、トランプはツイッターで「米中両国の間に貿易紛争はあるが、少なくとも習近平と私はいつまでも友達だ」とつぶやいている。トランプは常に安倍首相が訪米する前になると、習近平と「仲がいいこと」を見せようとする傾向にある。相手(この場合は日本)から譲歩を引き出そうという魂胆なのだろう。

習近平には好都合か

実はアメリカが対中強硬策に出ることは、習近平にとって、そう悪いことではない。一党支配体制の維持を図るために憲法改正まで行って国家主席の任期を撤廃してしまった。それは逆に言えば、そうでもしなければ一党支配体制を維持することは困難だったことを意味する。

そんな折に、「外敵」が現れるのは一極集中のためにはプラスになる。

だからわざわざ、「中華人民共和国誕生以来、中国は外部の脅しに屈服したことはない」という、中華民族の心を刺激するような言葉を使って対米貿易戦を闘おうとする。そうすれば人民が結束してくれるからだ。

4月8日からは中国の海南省で博鰲(ボアオ)アジア・フォーラム2018が始まった。国連のグテーレス事務総長も参加し、習近平と会談しているが、「中国がいかに多国間貿易と人類運命共同体を重んじているか」などと、恥ずかしげもなく褒めそやし、それをCCTVはくり返し報道している。

「それに比べてアメリカは、歴史を逆行しており、国際社会の秩序の破壊者だ」という、取材の「声」を拾いながら......。つまり「今後、世界をリードしていくのは中国だ」と言いたいわけである。トランプの一国主義や保護主義、そして何よりもビジネスマンとしての感覚しかなく国際政治のメカニズムを心得ていない動きは、「中国がアメリカを凌駕する日を早めてくれている」と、習近平はニンマリしている側面がないでもない。トランプ政権の陣営がスカスカで脆いとみなすが故に、中国は商務部、外交部、財政部とガッチリ連係プレーをして差を見せつける。リスクをチャンスに転換するという意気込み満々なのである。

中国が強気である理由の一つは、どうやらここにもあるようだ。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

チェコ、来月3日に連立合意署名へ ポピュリスト政党

ワールド

日中、高市首相と習国家主席の会談を31日開催で調整

ビジネス

トランプ氏「ガザ停戦脅かされず」、イスラエルは空爆

ワールド

エベレスト一帯で大雪、ネパール・チベット両側で観光
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中