最新記事

中国

中国が強気のわけ──米中貿易戦

2018年4月9日(月)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国への高関税による通商制裁は、今年の秋にある大統領中間選挙への対策で、その対策が票集めにつながらず、票を失うことにつながるとすれば、トランプは中国との話し合いに応じるしかなくなるだろう、というのが中国の計算である。

だから中国は徹底して強気に出る。

「ラスト・ベルト」に関しても類似のことが言えるが、長文になるので省略する。ひとことで言うなら、たとえば情報通信や機械、自動車などは互いに相手国の中間材料を複雑にクロスしながら用いているので(サプライチェーンが複層的なので)、中国を締め付ければアメリカも自分を締め付けることになるということだ。それに気づけば、アメリカは譲歩するしかなくなるだろうと中国は思っている。

中国は早くから準備

それだけではない。トランプは大統領選挙期間中から盛んに「中国を為替操作国に指定する」と言ってきた。だから中国はトランプが大統領になると何が起き得るかを分析してきた。

そこで強化したのが習近平の母校である清華大学経営管理学院にある顧問委員会である。

拙著『習近平vs.トランプ 誰が世界を制するか』のp.31~p.34に全ての顧問メンバーのリストがあるが、そこに、このたび(3月の全人代で)国家副主席になった王岐山の名前があるのが興味深い。当時は腐敗を取り締るための中共中央紀律検査委員会の書記でしかなかったのに、すでに金融界の履歴を発揮すべく、ここに名前が載っている。

顧問委員会に数十名いるアメリカ大財閥の中には、元財務長官で元ゴールドマンサックスのCEOだったポールソンもいれば、世界の上位10位にランキングされている企業の内の5社のCEOもここに名前を連ねていることが注目される。たとえばアップルのティム・クック、マイクロソフトのサティア・ナデラ、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、モルガンチェースのジェイミー・ダイモンなどだ。

昨年10月30日、第19回党大会を終えたばかりの習近平は、人民大会堂に顧問委員会の委員を呼んで座談会を開催した。顧問たちにお願いしたのは、言うまでもなく米中の経済貿易や金融関係など。この時点で既にトランプとの間の貿易摩擦が起きるであろうことは十分に予測されていた。なぜならアメリカは昨年8月18日の時点で既に、中国に対して通商法301条に基づく対中貿易制裁措置を適用する可能性があると発表していたからだ。

だから昨年11月のトランプ訪中に際し、習近平はトランプに対して2500億ドル(約28兆円)の大盤振る舞いをして、貿易不均衡を是正し、トランプのご機嫌を取ろうとしたわけだ。

これらの戦略は、すべてこの顧問委員会で論議されている。

最終的には対話交渉か

したがって、今般の米中貿易戦も、最終的にはこの顧問委員会の仲介により話し合いで交渉していくことに落ち着くだろうと中国は見ているのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スーダンの準軍事組織RSFが休戦表明 国軍は拒否

ワールド

銅相場は堅調、供給動向と米在庫を注視

ビジネス

米当局、コムキャストに罰金150万ドル 23万人超

ビジネス

赤沢経産相、ラピダス「国策として全力で取り組む」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中