最新記事

中国

中国が強気のわけ──米中貿易戦

2018年4月9日(月)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

するとトランプは5日、今度は中国からの輸入品に対する追加関税の対象を1000億ドル規模に拡張すると、エスカレートさせた。

三大行政省庁が揃って

これに対して中国は商務部、外交部に加えて財政部まで加わった連携体制で抗議声明を出すに至った。いずれもアメリカの一国主義に対して中国はあくまでも国際協調と多国間交渉を重んじており、アメリカが保護主義という歴史を逆行しているのに対して、中国はあくまでもグローバル社会における自由貿易を重んじると主張している。そして「アメリカが挑戦してきたから中国はやむを得ず自衛のために受けて立っているだけだ」と自らの立場を弁護し、中国が世界各国と協力し合いながら歩みを共にしていると強調した。

「中国の声」に統合された中央テレビ局CCTVは連日、1時間おきのニュースで繰り返すだけでなく特集を組み、また新華社や人民日報なども連続して激しい報道を繰り広げた。

なぜ「大豆カード」なのか?

その中で特に注目されたのは、たとえば「中国はなぜ大豆カードを切ったのか?」という解説であった。

中国の東北部はその昔から、大豆と高粱そしてトウモロコシなどの産地であった。しかし農民が農民工などとなって都会に出てしまい、かつ中国経済の発展により消費量があまりに多くなっていったため、やがて大豆は輸入に頼るようになった。それもほとんどが廉価なアメリカ産大豆で、年々増える一方だ。2010年から2017年までのアメリカ大豆の輸入量は2359.7万トンから3285.6万トンへと増加している。アメリカ側から見ると、アメリカの大豆の総輸出量の57%(~62%)は中国。つまり中国以外の全ての国を合わせた合計(38%~43%)よりも中国への輸出量の方が多いということになる。

しかし、中国の大豆需要の85%はアメリカから輸入しているので、貿易不均衡などの摩擦が起きた場合に中国は大きなダメージを受ける可能性が出てくる。

そこで中国は習近平政権になってから中国国内産の大豆価格に関する改革を行ない始め、また大豆農家には国家からの補助金が出るように改善して大豆の国内生産を推進してきた。

4月3日には、2018年財政重点項目「強農恵農」政策を発布したばかりだ。またアメリカに次ぐ大豆生産国であるブラジルやアルゼンチンなどと親密であるのも、いざとなったら他の国で補完できるようにするためである。

一方、トランプが票田とする地域は、ラスト・ベルト(さびついた工業地帯)やファーム・ベルト(農業地帯)だ。だから「アメリカ大豆」に25%の関税をかければ、中国はアメリカから輸入しなくなるから、票田の農民は悲鳴を上げる。このような結果を招いたトランプに不満を持ち「反トランプ」になってしまい、トランプは票を失うという連鎖が起きる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中