最新記事

米朝首脳会談

無知ゆえに米朝会談に乗ったトランプは、平和に対する最大の脅威

2018年3月12日(月)19時20分
ジェフリー・ルイス(ミドルベリー国際大学院東アジア不拡散プログラム・ディレクター)

香港に現れた金正恩とトランプのそっくりさん(2017年4月8日) Bobby Yip-REUTERS

<北に非核化の意思がないのに気づいていないのは裸の王様トランプだけだ>

ニクソン訪中を思い出させる話ではあるが、当時のニクソン米大統領はこれほど愚か者ではなかった。

ドナルド・トランプ米大統領が5月までに北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と首脳会談を行うというニュースはご存じだろう。一方で、ホワイトハウスの首脳会談に対する姿勢は後退したり前向きになったりで状況はめちゃくちゃだ。問題をここで整理しておこう。

北朝鮮は少なくともクリントン政権時代から、現職の米大統領による公式訪問を何より欲していた。ホワイトハウスのサラ・サンダース報道官はアメリカはいかなる譲歩もしていないと述べたが、はっきり言って会談に応じること自体が大譲歩だ。

トランプ大統領は米朝首脳会談のテーマは北朝鮮の非核化だとの印象を持っているようだが、北朝鮮側はそんなことはこれっぽっちも言っていない。

実際、北朝鮮の考えとして私たちが伝え聞いているのは、金正恩に酒宴でもてなされた韓国の訪朝団からの間接的な話、そして北朝鮮の国連大使がワシントン・ポストのアナ・ファイフィールド記者に送った電子メールだけだ。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特使として訪米した韓国大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長によれば、金は「北朝鮮に対する軍事的脅威がなくなり、体制の存続が保障されるなら」北朝鮮は核兵器を必要としなくなるだろうと述べたという。だがこの発言にほとんど中身はない。ファイフィールドへの電子メールに至っては、単に北のアメリカに対する立場を説明しただけで、非核化にはまったく触れられていない。

子供扱いのトランプ大統領

要するにトランプは、金は核兵器を放棄するつもりで会談に臨もうとしていると考えたようだ。だが金にとっては「核・ミサイル開発があったからこそ対等に扱われるようになった」ことを意味する。

イラク大統領だったサダム・フセインは大量破壊兵器の廃棄に応じたが、侵略されたあげく死刑になった。リビアの最高指導者だったムアマル・カダフィも大量破壊兵器を廃棄したが、米軍の支援を受けた勢力によって政権の座を追われ、暴徒に撲殺された。対照的に金正恩は、核・ミサイル開発計画を保持したまま、アメリカとの首脳会談に臨もうとしている。

ホワイトハウスはこのことをようやく理解したようだ。だからこそ北朝鮮が非核化に向けた「具体的な行動」を取らない限り、会談は行わないとの立場を示しているのだ。当初の反応を訂正したと言っていい。

実際のところ、何が起ころうとしているのだろう。米国務省のもつ専門知識抜きに対北朝鮮外交を行うことと、ホワイトハウスの人々がトランプを幼児のように扱っていることのマイナス面を、われわれは目の当たりにしているように思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウォルマート、時価総額が初の1兆ドル突破

ワールド

ディズニー新CEOにダマロ氏、テーマパークトップ 

ビジネス

これまでの米利下げ、雇用の健全性に寄与=リッチモン

ビジネス

ミランFRB理事「年内1%超の利下げ望む」、現行策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 3
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 4
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 8
    ICE射殺事件で見えたトランプ政権の「ほころび」――ア…
  • 9
    少子高齢化は国防の危機──社会保障を切り捨てるロシ…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 8
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 9
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 10
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中