最新記事

米朝首脳会談

無知ゆえに米朝会談に乗ったトランプは、平和に対する最大の脅威

2018年3月12日(月)19時20分
ジェフリー・ルイス(ミドルベリー国際大学院東アジア不拡散プログラム・ディレクター)

トランプは側近の誰からも、北朝鮮は米大統領の公式訪問を20年以上にわたって強く望んできたのであって、金正恩が首脳会談を呼びかけたことに新味は全くないということを聞かされていないようだ。また、側近らは北朝鮮が核・ミサイル開発計画の放棄を言い出さない可能性について考えていないらしい(単に理解できていないのかも知れない)。

一方で、もっといただけない理由がそこにはあるのかも知れない。考えられるのは、側近たちがおびえているという可能性だ。側近たちはトランプが北朝鮮問題で何をしでかすかわからないと恐れており、「炎と怒り」から金正恩との首脳会談に注意を逸らせるチャンスに飛びついたのかも知れない。「ひどい話だが最悪の事態よりはまし」と考えているわけだ。

トランプこそ平和への脅威

韓国政府も同じと言っていいだろう。トランプは平和にとって金正恩よりもはるかに深刻な脅威だと考えたからこそ、北に対する「太陽政策」を全面的に推し進めた。常軌を逸したこの男がもたらす脅威に何とか対処しようとして、本来ならやらないような行為に出ている人がいかに多いか考えるだけで恐ろしい。

この種の対応は新たな懸念を生む。側近や韓国や私たちがうまく彼をコントロールできず、逆に力を与えてしまったらどうなるか。

私は以前から、北朝鮮に外交的に手を差し伸べるべきだと考えてきた。例えば北朝鮮による核保有を当面、暗黙のうちに認めるといったことだ。だがトランプがそうした戦略を是とするとは思えない。

おそらくこうなった背景は、関係者すべてがトランプに「自分が何かを勝ち得ようとしている」と思わせておきたがったことではないか。韓国政府も日本政府も、金が首脳会談を求めたのは北朝鮮に「最大限の圧力」をかけるトランプ政権の戦略の成果だとひたすら持ち上げた。

日韓の外交官は、金からの誘いに意味がないことくらい分かっている。それでもトランプをおだてるのは、みんなが命を長らえるためには必要な措置だと考えているからだ。

みんな、トランプをうまくだましている気になっているのかもしれないが、もし金正恩に非核化の意思がないことをトランプが理解したらどうなるだろう。

スタジアムに集められた幾万の北朝鮮国民が色のついたカードを手に、微笑む自分の似顔絵を作るのを見てだまされるほど、トランプの頭が悪いとでも言うのだろうか? 金に出し抜かれそうになっていることにトランプもいつかは気づくとは思わないのか? 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府、TSMCの中国向け製造装置輸出巡る特別措置

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ249ドル安 トランプ関税

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中