最新記事

教育

マインドフルネスが気になる症候群

2017年10月26日(木)17時30分
エリッサ・ストラウス(ジャーナリスト)

コロラド州デンバーの学校で教師と瞑想に励む子供たち Andy Cross-The Denver Post/GETTY IMAGES

<教育現場でもマインドフルネスがブームだが、うちの子はロボットまがいの企業戦士にさせられる?という不安がよぎる>

ある日、息子を保育園に迎えに行くと、先生が子供たちを静かにさせようとしていた。小さな鈴をチリンと鳴らし、「みんな、息を大きく吸って」。

園児たちは深呼吸をした。効果はてきめん。すぐに静かになった。

以前なら気にも留めなかったかもしれない光景だ。しかし瞑想を基にしたマインドフルネスが「競争力」を鍛える手段として話題になっている今、深呼吸もただの深呼吸として片付けられない。息子は保育園で、マインドフルネスを教えられていたのだろうか。

集中力を養うためにマインドフルネスを採用するアメリカの学校は増えている。先生が園児に深呼吸させるのを見て、私は不安を覚えた。この社会はマインドフルネスという名のモンスターに首根っこをつかまれているのではないか。学校はマインドフルネスをどう使っているのだろう? 息子はロボットまがいの企業戦士に育つのか?

マインドフルネスとは仏教の瞑想から宗教色を取り除いたもの。学校では児童を静かに座らせ、呼吸を意識して心の中を見つめるよう指導される。感謝の気持ちを養ったり、五感を研ぎ澄ますレッスンもある。

特に人気なのはレーズンを使うエクササイズ。児童にレーズンを2粒与え、違いを観察させる。レーズンに触れ、香りを確かめ、最後は食べて味わう。

教育現場への普及を目指すNPO団体マインドフル・スクールズによれば、教師からの問い合わせは確実に増えている。瞑想は子供に増えている不安神経症や鬱を抑えるのに効果的だという。

14年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校などの研究チームが、低所得者層出身で大半がマイノリティーの児童約400人を対象にした調査結果を発表。瞑想を5週間続けた後では集中力と積極性が増し、以前より他人に思いやりを見せるようになったという。

そうはいっても、授業の一環として瞑想をさせるのは、やり過ぎではないのか。子供を行儀よくさせておきたいだけのようにも思えてしまう。

専門家に話を聞くと、不安はいくらか払拭された。「マインドフルネスは心の傷に貼るばんそうこう」と、スタンフォード大学教育学大学院のデニース・ポープ上級講師は言う。「応急処置として手軽に取り入れられ、効果は大きい」。だが教師と児童の負担が増えることは、ポープも認めている。

子供をしつけ、コントロールする方便として利用される恐れもある。昨年話題になったニューヨークの小学校の流出ビデオでは、教師が1年生の児童を「『心を静める椅子』に座りなさい」と怒鳴りつけていた。メリーランド州ボルティモアのある高校では、問題を起こした生徒を「マインドフルな部屋」で反省させるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国シャオミ、初のEV販売台数が予想の3─5倍に=

ワールド

イスラエル北部の警報サイレンは誤作動、軍が発表

ワールド

イスファハン州内の核施設に被害なし=イラン国営テレ

ワールド

情報BOX:イランはどこまで核兵器製造に近づいたか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中