最新記事

インタビュー

リンダ・グラットンが説く「人生100年時代」の働き方

[リンダ・グラットン]ロンドン・ビジネススクール教授

2017年6月8日(木)14時51分
WORKSIGHT

Photo: WORKSIGHT

<長寿化により、引退後に余生を楽しむという人生は終わる、そしてそれはポジティブな変化だと『LIFE SHIFT』の著者リンダ・グラットン氏は言う。働き方は「教育」「勤労」「引退」の3ステージから、マルチステージへ移行する>

2016年10月、WORKSIGHT LAB. エグゼクティブセミナー「THE 100-YEAR LIFE~100歳まで生きる時代のワークスタイル~」にて、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』を執筆したリンダ・グラットン氏の講演会が開催された。(主催:コクヨ株式会社)

グラットン氏の講演内容を前編(本編)で、その後に行われた予防医学研究者・石川善樹氏とのトークセッション内容を後編で紹介する。

◇ ◇ ◇

世界では長寿化が急激に進んでいます。過去200年のデータを見ると、10年ごとに寿命が2年ずつ延びています。これは1年が14か月に延びること、あるいは1週間が9日に、1日が30時間になるのと同じです。

先進国では1967年生まれの半数は91歳まで生きると見込まれます。1987年生まれは97歳、2007年生まれに至っては2人に1人が103歳まで生きることになります。日本の場合はさらに長寿で、2007年生まれの半数が107歳まで生きると予測されています。人生100年時代は私たちが思っているより速く、驚くべきスピードで進行しているのです。

【参考記事】老化はもうすぐ「治療できる病気」になる

できるだけ長く、健やかで生産的に生きていくために

日本は長寿国であると同時に、出生率が低い国でもあり、2050年には老年従属人口指数が世界で最も高まります。つまり、少ない数の若者で多くの老人を支えていくことにかけて世界一となるのです。

寿命が延びると聞くと、健康や生活資金、介護などの不安を感じる人も少なくないでしょう。でも長寿化は素晴らしい恩恵です。長生きするということは、それだけいろいろなことをするチャンスが巡ってくるということだからです。例えば寿命が70歳だとすると、一生に過ごす生産的な時間は12万4800時間となります。80歳まで生きるなら15万6000時間、100歳までとなると、21万8000時間にも増えるのです。

まずは長寿をポジティブにとらえること。国民1人ひとりができるだけ長く、健やかで生産的に生きていくことが状況を打破する鍵です。どれだけの時間を、どのように使っていけばいいのか。それを詳しく述べたのが新著『ライフ・シフト』です。ここではその内容をかいつまんでご紹介します。

引退後に余生を楽しむ人生モデルの終焉

人生100年時代の到来はさまざまな変化を引き起こします。その1つとして予測できるのは、日本を含む先進各国で人々がより長く仕事を続けることになるということです。モデルケースを使ってシミュレーションしてみましょう。

1971年生まれのジミーはいま40代です。65歳で引退し、この年代生まれの平均寿命に当てはめて2056年、85歳まで生きるとするとリタイア生活は20年にもなります。老後は最終年収の50パーセントで暮らしていくと想定した場合、毎年の所得の17.2パーセントを貯蓄し続けなければなりません。これは到底無理な話ですし、企業年金や公的年金も盤石とはいえません。

ではジミーはどうすればいいのでしょうか。できることは2つあります。1つは、65歳で引退する代わりに老後の生活レベルを下げること。もう1つは、引退の年齢を引き上げることです。世界にはジミーのような人が大勢いますが、多くの人が2つ目の選択肢を選ぶことになるでしょう。65歳という高齢を迎えて、働きたいからという理由で働くのならともかく、生活のために働かざるをえない人がたくさん出てくるわけです。

もう少し年下のジェーンはどうでしょう。1998年生まれで、100歳まで生きると仮定します。彼女も65歳で引退するとしたら、老後生活は35年に及びます。これを実現するには給料の25パーセントを貯蓄に回さなければなりません。極めて非現実的な話です。

ということはつまり、ジェーンもより長い期間働かなければならないということです。貯蓄分を10パーセントに抑えたとしても80歳まで仕事を続けなければなりません。これは決して荒唐無稽な話ではないのです。実際、アメリカでは多くの人が年金生活に入れず、死ぬまで働かなければならないだろうという研究結果もあります。

長寿社会とは、より長く働く社会でもあるということです。引退後に余生を楽しむという人生はもう終わり。60代、70代の人は"ご隠居"ではないのです。80代、あるいは90代だってそうです。年齢に関してのステレオタイプを取り払っていかなくてはいけません。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米9月小売売上高0.2%増、予想下回る EV駆け込

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中