最新記事

サイエンス

老化はもうすぐ「治療できる病気」になる

2016年12月30日(金)19時49分
ロナルド・ベイリー(米リーズン誌サイエンス担当)

1899年生まれのイタリア人、エマ・モラノ。2016年11月29日に117歳の誕生日を迎えた Alessandro Garofalo-REUTERS

<最新医学の常識では、老化はもはや自然現象ではない。老化防止のための「ミトコンドリア治療」などの発達で、老化は「治療可能な病気」になりつつある>

 現在最高齢の人間は、11月29日に117歳の誕生日を迎えたイタリア人女性のエマ・モラノ。19世紀生まれの最後の存命者だ。長寿の秘訣は、1日3つの生卵と、1938年以来ずっと独身でいることだという。

 これまで最も長生きしたのは、フランス人女性のジャンヌ・カルマン。1997年に122歳で亡くなった。

 英科学誌ネイチャーは10月、米アルベルト・アインシュタイン医学校の3人の研究者による「人間の寿命の限界を示す科学的根拠(Evidence for a limit to human lifespan)」という論文を掲載した。研究チームは1990年代以降最高齢者の年齢が延びていないとしたうえで、人の寿命にはそもそも限界があると結論付けた。稀な例外を除けば、どんなに延びても115歳が限度だという。

老化は病気という新常識

 だが、本当にそうだろうか。21世紀になると、事故や災害などの場合を除き、人を死に至らしめるほぼすべての原因は「病気」として扱われるようになった。この流れでいくと、これからは人を殺す「老い」も病気とみなして治療を求める時代だ。

 2015年にはヨーロッパの老年学者の研究チームが、老いを病気に分類せよと提唱する論文を発表した。老化は「自然かつ人類共通の(正常な)プロセスであって病気ではない」という従来の常識に異議を唱えたのだ。

【参考記事】女性は妊娠で脳の構造を変え、「子育て力」を高める:神経科学の最新研究

 100年前なら、骨粗しょう症や関節リウマチ、高血圧、心身の衰えなどは、ただの老化現象とみなされた。ところが今、そうした症状は立派な病気として治療が施される。「老いが人体の構造や機能にとって有害で異常な状態だという事実には、疑いの余地がない」と彼らは論文で述べた。「老化には特定の原因があることが明らかになってきている。それらの原因一つひとつを細胞や分子レベルまで分析すれば、老いの兆候や症状を見つけ出すことも可能だ」

 ヨーロッパの別の研究グループが2015年に発表した論文によると、老化関連疾患が表れる前には、体の組織や細胞内で加齢性の変動が起きる。それを突き止めることで老化状態を予測する「バイオマーカー」が多数特定されていると指摘した。製薬会社や医師がそうしたバイオマーカーを活用すれば、細胞や分子の機能不全を正常に戻す治療を解明して患者に施し、体内の化学反応が最適に機能する状態に戻せるという。

【参考記事】抗酸化物質は癌に逆効果?

 大抵の人にとって、体内の化学反応が最も良い状態なのは20代のときだ。事実、15~24歳のアメリカ人の若者と65歳以上の高齢者を比較すると、心臓疾患で死亡する確率は500分の1、インフルエンザや肺炎は230分の1、癌は100分の1など、若者の方が遥かに低い。

【参考記事】カーターの癌は消滅したが、寿命を1年延ばすのに2000万円かかるとしたら?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中