最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

退任直前のオバマが、駆け込み「恩赦」を急ぐ理由

2016年12月19日(月)17時00分
山田敏弘(ジャーナリスト)

Carlos Barria-REUTERS

<退任直前のオバマ政権が、服役囚を減刑する恩赦の数を急増させている。その背景には、在任中に司法制度改革を進められなかったところに、次期トランプ政権が犯罪の厳罰化を主張していることがある>(写真:オバマの任期も残りわずかとなった)

 バラク・オバマ米大統領の任期終了が迫っている。年明けの1月20日に、不動産王のドナルド・トランプが次期大統領に就任すれば、ホワイトハウスを明け渡さなければならない。

 退任を間近に控えたオバマによる駆け込み「恩赦」が今、注目されている。もともと人権派弁護士だったオバマは最後の大仕事に乗り出しているかのようだ。その背景には何があるのか?

【参考記事】遅刻魔プーチンの本当の「思惑」とは

 そもそも、アメリカでは大統領が犯罪者に対して恩赦を与えることが伝統になっている。大統領は、憲法によって、弾劾のケースを除いて、刑の執行猶予や恩赦を与える権限を持っている。刑を減刑する恩赦や、囚人を完全に無罪放免する恩赦もある。

 最近では、感謝祭(11月24日)直前の22日に、連邦刑務所に投獄されている麻薬犯罪者79人に、オバマが減刑措置の恩赦を与えたことが大きく報じられた。この79人への恩赦が特に注目された理由は、これによってオバマがこれまでに与えた減刑措置の総数が1000件を超えたからだ。この数は、リンドン・ジョンソン大統領(第36代、1963〜69年)以降最多で、過去11人の大統領が行なった減刑措置を足した合計よりも多い。

 現在、オバマの減刑措置は合計で1023件に達し、囚人を無罪放免にして釈放できる完全な恩赦などは70件行っている。そして恩赦の数はオバマが退任するまでにさらに伸びると見られている。事実、現在オバマのデスクには、2000件ほどの完全な恩赦の嘆願書と、1万2000件以上の減刑要請が届いているという。

 オバマが多くの恩赦を与えている背景には、2014年に発表された「恩赦戦略」がある。この戦略は、非暴力的な麻薬犯罪などで、少なくともすでに10年以上服役している囚人からの恩赦の嘆願を受けつけるもの。というのも、時代の変化で量刑は変わっているので、同じ犯罪でも今なら昔よりももっと短い刑期を言い渡される犯罪がある。非暴力的な麻薬犯罪はその典型例だ。そのようなケースに該当し、さらに刑務所内で暴力歴がない模範囚に救済を与えるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米サイバーマンデー売上高、6.3%増の見通し AI

ビジネス

BofA、FRBの12月利下げを予想 据え置き見通

ビジネス

米、英の医薬品関税をゼロに NHS支出増と新薬価格

ワールド

ゼレンスキー氏、マクロン氏とパリで会談 「持続可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中