最新記事

人権問題

中国獄中で忘れられるアメリカ人

2016年9月20日(火)11時00分
ジェフ・スタイン

 12年11月14日、スワイダンは珠江デルタの工業都市である広東省東莞で拘束された。起訴状によれば、メキシコ人や中国人による犯罪者集団と共謀し、ドラッグを製造・販売したという。

 事件を詳細に調べた対話財団のカムが言うには、スワイダンにとって不利な証拠は、メタンフェタミンが製造されていたと中国当局が主張する工場を一度だけ訪れたことと、ある人物から彼が借りた部屋でドラッグが見つかったことだけだ。法医学的な証拠、つまり指紋もDNAも体内から検出された薬物もないと、カムは言う。「電子メールや電話記録など、彼が調整役だったという証拠も示されていない」。彼は無実だと、カムは確信している。

 スワイダンの訴訟は中国の法律の下で進んでいるため、自分たちにできることはないと米国務省の職員は言う。同省によれば、中国で拘束されているアメリカ人は約90人。有名なのはサンディ・ファンギリスだ。

 実業家の彼女は昨年3月にヒューストン市の貿易代表団の一員として中国を訪れた際、中国の安全保障を損なう活動に従事していた疑いで治安当局に拘束された。しかし中国側はいまだに、ファンギリスの犯罪行為の証拠を公にしていない。

【参考記事】「イギリス領に戻して!」香港で英連邦復帰求める声

 今年7月には国連人権理事会の「恣意的拘禁に関する作業部会」が、中国はファンギリスを正式に起訴していないし、法的支援も行っていないと批判。中国当局は同部会に対して、彼女には「外部の関係者が国家機密を盗む手助けをした」容疑があると述べたと報じられている。

 ヒューストンでは、キャサリンが日々、フェイスブックを通してスワイダンへの支援を必死に訴えている。7月には地元の議会議員、テキサス州選出の連邦上院議員(共和党のテッド・クルーズとジョン・コーニン)、「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)」の共同委員長、そしてケリーに手紙を出した。本稿執筆時点では、まだ誰からも返事は来ていない。

「貴殿や多くの方々に、数え切れないほど何度も手紙を書きました。しかし中途半端な反応をもらうか、まったく反応がないかでした」と、彼女は書いた。「マークも、中国で拘束された他のアメリカ市民と同じくらい注意を払うに値する。あなた方がそう考えていると、どうか私に教えてください」

「彼は私の息子です」と、彼女は続けた。「彼はアメリカ市民です。息子を中国の刑務所で死なせないでください。マーク・スワイダンを家に連れて帰れるよう、私を助けてください」

[2016年9月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪6月失業率は3年半ぶり高水準、8月利下げ観測高ま

ビジネス

アングル:米大手銀トップ、好決算でも慎重 顧客行動

ワールド

WTO、意思決定容易化で停滞打破へ 改革模索

ビジネス

オープンAI、グーグルをクラウドパートナーに追加 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 9
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中