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日中韓関係と日本の課題

2015年11月6日(金)17時30分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 ところが韓国は、朝鮮戦争においては北朝鮮の側に立って韓国を攻撃していた(敵国だった)中国と、旧ソ連崩壊に伴って国交を正常化し、2008年以降、急速な経済発展を見せる中国と、蜜月関係に入り始めた。日中韓首脳会談(指導者サミット)の枠組みができたのは、このタイミングで、特に2010年に中国のGDPが日本を追い抜くに至ってからは、蜜月度は強まっていった。

 朴槿惠は、大統領になる前から胡錦濤国家主席と会談しており、しかもそのときは中国語で会話し、くだけた雰囲気の中で食事を共にしたりしている。

 その朴槿惠が大統領になってからは、中韓蜜月度は、双方から急激に濃厚となってきた。中国は西側陣営から韓国を切り離し、歴史問題で国際世論を形成する絶好のパートナーとして韓国を積極的に「活用(利用?)」し始めた。

 オバマ大統領に、これ以上中国接近を続けるのなら、果たして米韓軍事同盟はどうなるのかといった趣旨の、韓国の覚悟のほどを朴大統領に問い詰めているとのこと。米中の間に挟まれた朴槿惠大統領は、「それも困るし」ということで、いやいやながら、日韓首脳会談を、日中韓首脳会談という場を口実として開催したのだろう。それは少しでも親日的色彩を見せると、韓国国民から売国奴と罵られる危険性を回避した、せっぱ詰まって選択であったと判断される。

 何しろ朴槿惠大統領の父親・朴正煕(パク・チョンヒ)(元大統領)は、かつて日本の元陸軍士官学校を優秀な成績で卒業した親日派。それゆえに暗殺されている。母親も暗殺された。だから朴大統領としては、親日色を強めれば、自分も暗殺されるであろうことを知っているので、米中の狭間で揺れ、特に安倍首相との会談を避けてきたものと判断される。

 それでも、ようやく行なった日韓首脳会談は、あまりに中国と日本への対応を鮮明に分け過ぎた、非礼とも言えるものとなっている。

 このようにギクシャクとした日韓関係は、やはり、いわゆる「慰安婦問題」で溝を残したままだ。

 ちなみに、筆者が2000年に日中韓の若者の意識調査を行なおうとしたとき、韓国側から「ぜひとも慰安婦問題に関する若者の認識」という項目を入れてくれという強い要望があった。その要望を中国側に伝えたところ、中国側の教育機関の教員は、「えっ? 慰安婦問題って何のこと?」と尋ね、「教員さえ知らない項目を、若者の意識調査に入れてもらっては困る」と筆者に抗議したものだ。それくらい、2000年の段階においても、中国ではまだ「慰安婦問題」というのは、大きな歴史問題として認識されていなかった。

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