最新記事

中東

シリア反体制派の危険な変化

アサド政権の打倒を掲げる反政府勢力も敵か味方かわからない。泥沼の内戦の背景に潜むイスラム過激派の正体

2012年8月22日(水)15時52分
トレーシー・シェルトン(ジャーナリスト)

過激化 外国からの武器の大半は自由シリア軍内部の宗教過激派に流れているという(北部のイドリブ県) Shaam News-Reuters

 ディオジェン(仮名)は多くの仲間たちと共に革命運動に加わり、シリアの自由と民主主義のために戦ってきた。だが最近は、革命に幻滅を感じている。原因は反体制派の方向性の変化だ。

 反政府武装勢力の自由シリア軍は、宗教過激派に主導権を奪われていると、ディオジェンは語る。過激派はまだ少数だが、イスラム国家の樹立を最終目標に掲げているという。「これが新たな独裁のための革命だとしたら、私たちは無駄死にすることになる」

 ディオジェンは、シリア経済の中心地でバシャル・アサド大統領の支持基盤である北部アレッポの大学で、最初に抗議活動を始めた学生の1人。革命派の雑誌「国民のペン」の発行チームの一員でもある。

 それでも今は仮名を使わざるを得ない。政権側だけでなく、反政府側内部の反発も怖いからだ。自由シリア軍の指導層はアサド政権だけでなく、他の宗教や宗派とも戦っているようだという。

 シリア人の大半はディオジェンと同じイスラム教スンニ派だが、政府はシーア派の分派とされる少数のアラウィ派が牛耳っている。さらにキリスト教徒やクルド人などの少数派もいる。

 シリア情勢は時間の経過とともに宗派対立の様相を帯びてきた。政府側はスンニ派住民を攻撃の標的にしているという声も出ている。
ディオジェンらは、革命闘争が徐々にスンニ派とアラウィ派の「聖戦」に移行する事態を懸念しているが、自由シリア軍の指導層はこの見方を強く否定する。

「宗派戦争という主張は、バシャルが持ち出した権力維持のための口実だ」と言うのは、保守的なイスラム教徒が多いイドリブ県ジャバル・アッザーウィヤ地域で8個大隊を率いるアフメッド・アッシェイフ司令官だ。アッシェイフによれば、自由シリア軍にはアラウィ派の戦闘員も多いという。「われわれは宗派のために戦っているのではない。われわれは全員、宗派とは関係なく対等な立場だ」

 アッシェイフも多くの部下たちも、最終目標はイスラム国家の樹立だと認めているが、ほかの少数派を政権から排除するつもりはないと慎重に付け加える。


内戦に発展する危険性も

「自分の権利をつかみ取り、他者にも権利を与えよ、というのがイスラムの教えだ」と、アッシェイフの指揮下にあるアサド・イブラヒム大隊長は言う。「現体制を倒した後、われわれが主導権を取り、イスラムが宗教とは関係なく、すべての人々に民主的権利を与えることを示したい」

 だがディオジェンは懐疑的だ。彼は自由シリア軍を突き動かす宗教的情熱だけでなく、戦いそのものも否定する。シリアの変革は平和的行動と国際的な圧力によって達成されるべきだと主張しているが、そのせいでディオジェンは殺害の脅迫を受けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スリランカが別のイラン船救助活動、軍艦攻撃「米は後

ビジネス

ECB、イラン紛争でインフレ期待変化なら政策スタン

ワールド

中国5カ年計画、石油生産2億トン目標を維持 備蓄拡

ビジネス

連合、春闘賃上げ要求は平均5.94% 着地も高水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中