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英語教育

英語しゃべれる人材育成も費用対効果

2010年5月10日(月)12時55分
井口景子(東京)、アンドルー・サルモン(ソウル)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局)

 「文法的な正確さにこだわるより、スキルを融合して問題を解決する能力のほうが重要だと気が付いた」と研修責任者のガブリエル・エイラートエッブケは言う。「大切なのは仕事上の目標を達成することであって、英語力を目標のレベルに引き上げることではない」

 正確さにとらわれて流暢に話せないという悩みは、文法重視の教育が続く韓国や日本ではとりわけ切実だ。「交渉では相手の言葉を注意深く聞き、真意を読み取る必要があるのに、韓国人は文法の間違いに気を取られる」と、韓国のクレジットカード最大手、現代カードの崔成源(チェ・ソンウォン)人事部長は言う。

 韓国企業の英語教育投資は不況下でも世界随一で、ソウルのオフィス街では早朝の英会話クラスが人気だ。これだけ努力しても外国人と渡り合えないとしたら、突破口は別にある──そう考えた大手法律事務所ファン・モク・パークの黄周明(ファン・ジュミョン)会長は一見、遠回りなアプローチで注目を集めている。

 同社の顧客リストには多数の多国籍企業が名を連ねるが、間違いを恐れる韓国人弁護士たちは英語での折衝に強い抵抗感を持っていた。そこで黄は、外国人でにぎわう梨泰院地区のバーで定期的にネットワーキングパーティーを開催。外国人駐在員や外交官を招待し、部下が英語のコミュニケーションに慣れる場を用意している。

 幼い頃から勉強は試験のためのものと信じてきたエリートたちにとって、お酒を片手に会話を楽しむ経験は、正確さへの強迫観念を捨てる絶好の機会。毎回数千ドルの費用は会社負担だが、欧米に留学させるよりずっと安上がりだ。

増大する「言語コスト」

 その一方で、試験勉強に慣れたアジア人の特性を利用して、試験を使って実践力を高める取り組みも加速している。

 留学希望者が受験するTOEFLが05年にスピーキングとライティングの試験を導入するなど、英語検定業界はこの数年、「使える英語力」を測る方向に一斉に舵を切った。ケンブリッジ大学などが運営し、「話す・聞く・読む・書く」の4技能すべてを測定する試験IELTSは、中国や台湾などで急速に受験者が増えている。

 ビジネスに必要な英語力の指標として広く普及しているTOEICも07年、「話す・書く」能力を測定するTOEICスピーキングテスト/ライティングテスト(SWテスト)を開発。受験者はヘッドセットを装着してパソコンの前に座り、自分の意見を口頭で述べたり、メールを作成したりする。

 「読む・聞く」という受け身の英語力を測る従来のTOEICのスコアが高くても、実際に英語で仕事ができるレベルには程遠い──そんな例を多数見てきた企業にとって、実践に役立つ英語力を判定するSWテストは魅力的だ。

 韓国では07年に6万5000人だった受験者が、09年には15万人に。斗山グループやサムソンなどの有名企業を含む500以上の企業・団体が、採用希望者にSWテストのスコア提出を求めている。

 中国・深!に本社を置く世界2位の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)では、世界各地の従業員9万5000人すべてにSWテストの受験を義務付けている。100カ国以上に拠点を持ち英語を日常的に使う同社には、実践的な英語力を適正に評価する世界共通の基準が必要だった。

 SWテストの設問は実際のビジネスシーンに近いため「自分の課題やその克服法に気付くきっかけになる」と、東アジア地域人事部のシニアマネジャー、欣は言う。「話す力と書く力を伸ばそうという意欲を高める効果もある」

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