最新記事

中東

イラク選挙を乗っ取るイランの「スパイ」

3月7日のイラク議会選挙を前に、次期首相の座を狙うチャラビはイランの手先だとアメリカが批判を強めている

2010年3月3日(水)17時42分
マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

高まる緊張 スンニ派候補者を失格させた決定に抗議する人々(2月13日、バグダッド) Saad Shalash-Reuters

 イラク駐留米軍司令官のレイ・オディエルノは最近になって、イラクのアフマド・チャラビ元首相を厳しく批判し始めた。かつてアメリカのネオコン(新保守主義者)たちに重宝したこの男が、3月7日に行われるイラク連邦議会選挙を「ハイジャック」しようとしているというのだ。それもイランの利益のために。

 チャラビはシーア派主導の現政権で「バース党排斥委員会」を率いている。彼がイランに「操られている」とするオディエルノの批判はイラク国内で波紋を呼んでいる。しかし、アメリカの情報機関関係者にとっては意外な話ではない。

 CIA(米中央情報局)では10年以上前から、オディエルノと同様の説がささやかれてきた――チャラビは密かにイラン政府と手を組んでいる、と。チャラビが、国防副長官を務めたネオコンの重鎮ポール・ウォルフォウィッツや他のジョージ・W・ブッシュ政権関係者と親しくしていたにもかかわらずだ。

 チャラビは「イランの命令で動いている」と、ジョン・マグワイアは言う。マグワイアは元CIAイラク担当責任者の一人で、03年の米軍イラク侵攻後はバグダッドで副署長を務めた。「チャラビは(イラン政権から)具体的な指示を受けて、行動している。それは96年から続いているが、もはや隠しようがなくなっている」

 かつて一部のネオコンから「イラクのジョージ・ワシントン」と称賛されたチャラビ本人は、この話を断固として否定している。自分は愛国者で、イラクの利益のために尽くしているという。彼は先週、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、デービッド・イグネーシアスに宛てた電子メールにこう書いた。「私たちがアメリカの政治的意図に反する行動を取るたびに、こういった非難の声が上がる」

スンニ派候補者を失格にした意図は

 チャラビは最近、イラク選挙について協議するためイラン革命防衛隊司令官のカシム・ソレイマニなどイラン当局者たちと「何度か」会合を持ったと、オディエルノは指摘している。これに関して本誌がチャラビの報道官フランシス・ブルックに問い合わせたところ、メールでこう回答があった。「チャラビはイラクの有能な指導者たちの例にもれず、すべてのイラク隣国と外交、政治、情報活動、軍事の面でつながりがあり、個人的な関係も築いている」。

 ブルックはまた、オディエルノが「優秀な司令官」で「サダム・フセイン逮捕に尽力した彼に恩義を感じている」ものの、彼は「イラクを愛する者の行動に対して判断を下せるような立場にはない」としている。

 だがオディエルノやマグワイアらは、最近のチャラビとその代理人アリ・アラミの政治的な動きの背後には、愛国心以上の腹黒い動機があるとにらんでいる。

 シーア派のチャラビとアラミは、イラクの「責任追及と正義委員会」主要メンバーとして、スンニ派の議会選候補者145人の出馬を禁止した。名目上は、彼らがフセイン政権下の支配政党バース党の元党員だったという理由だ。これは、イランとのつながりが強くチャラビが後押しするシーア派議員を多数当選させようという露骨な企てだと、米当局は考えている。

 チャラビは「元バース党員だからという理由ではなく」、権力争いのためにスンニ派候補者を失格にしたと、マグワイアは非難している。「試合で勝てないなら、試合が始まる前に追い出してしまえというわけだ」。

 そうすることでチャラビとイランの利害は完全に一致すると、マグワイアは言う。チャラビは「首相になりたいし、イランは自分たちがコントロールできるレバノンのような従属国がほしい。今イラクで起きているのは、レバノンのヒズボラ(イランと密接に結びついているシーア派組織)の動きそのものだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中