最新記事

米人種問題

ミシェルという存在の重さ

ホワイトハウス入りしたオバマ夫人はアメリカ社会にはびこる黒人のステレオタイプを壊し、黒人の自己イメージさえ変えるかもしれない

2009年4月9日(木)11時30分
アリソン・サミュエルズ(ロサンゼルス支局)

夫人のチェンジ アフリカ系のなかでも肌の黒いミシェルは、黒人女性のステレオタイプを打ち破りそうだ
Kevin Lamarque-Reuters

 昨年11月、日曜日のロサンゼルス。教会からの帰りに私は友人たちとブランチをしながら、おしゃべりに花を咲かせた。

 当然ながら話題は大統領選挙。バラク・オバマの歴史的勝利の興奮から私たちはまだ冷めていなかった。生きているうちにアフリカ系の大統領が誕生したことに、まだ驚いていた。

 その場にいたのは30代と40代の黒人女性6人。私たちはオバマの勝利だけでなく、妻のミシェルがホワイトハウス入りすることにも興奮していた。

 ミシェルの輝かしい学歴や個性的なスタイルを、私たちは文句なしに評価していた。少しばかり嫉妬もしていただろう。でも、みんなわかっていた。私たちが彼女に心から期待していることを。

 45歳のミシェルは、ジャクリーン・ケネディ以来、最も若いファーストレディーになる。ジャクリーンと同じく、女性たちの憧れるセレブなムードのファーストレディーが生まれそうだ。

 しかしミシェルがホワイトハウスに入る意味は、もっと大きい。彼女は世界で最も注目を集めるアフリカ系アメリカ人女性になる。黒人女性に対する醜いステレオタイプ(固定観念)を打ち崩し、アメリカのブラックカルチャーを世界に教えるチャンスを手にする。

 いや、それだけではない。アフリカ系アメリカ人の自己イメージまでも変える力を、ミシェルは手に入れることになる。

 大きなチャンスには大きな責任が伴う。「ミシェルはいつだって品良く振る舞うでしょう。自分は(アフリカ系の)代表だとわかっているから」と、おしゃべり仲間の一人で看護師のガートルード・ジャスティン(40)は言った。「自分が黒人のステレオタイプを壊す存在であり、何をしても注目されることは知っているはず」

 テレビや映画に出てくる黒人女性といえば、薬物依存のふしだらな女や、毒舌家の肝っ玉母さんと決まっている。それが私たちアフリカ系女性の本当の姿ではないということを、これからミシェルは日々思い起こさせてくれる。

 ミシェルも主流の白人社会で生きるために、微妙なバランス感覚を身につけなくてはならなかった。アイビーリーグの二つの大学で学位を取得し、一流の法律事務所で働いたこれまでのキャリアで、彼女は「白い社会」への溶け込み方を学んだはずだ。

 いまミシェルは、さらにむずかしい課題を背負った。それは、アフリカ系コミュニティーにも、それ以外のアメリカ人にも信頼されるファーストレディーになること。その課題を、自分に嘘をつかずにやり遂げなくてはならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請4000件減の21.7万件、3カ

ワールド

トルコ中銀3%利下げ決定、緩和路線再開 政策金利4

ビジネス

米総合PMI、7月は54.6に上昇 12月以来の高

ビジネス

ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家安全保障に潜むリスクとは
  • 2
    まさに「目が点に...」ディズニーランドの「あの乗り物」で目が覚めた2歳の女の子「驚愕の表情」にSNS爆笑
  • 3
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつものサラダ」に混入していた「おぞましい物体」にネット戦慄
  • 4
    WSJのエプスタイン・スクープで火蓋を切ったトランプ…
  • 5
    参院選が引き起こした3つの重たい事実
  • 6
    アメリカで牛肉価格が12%高騰――供給不足に加え、輸入…
  • 7
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 8
    バスローブを脱ぎ、大胆に胸を「まる出し」...米セレ…
  • 9
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 10
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 4
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 5
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 6
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 7
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 8
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 9
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 10
    日本では「戦争が終わって80年」...来日して35年目の…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中