超加工食品 脳の快感回路に作用する危険性を、欧米科学者が警告

KILLED BY FAKE FOOD

2022年1月31日(月)11時05分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

220201P18_KKS_03.jpg

加工食品を作るクラフト・ハインツ社の工場。アメリカでは成人の42%、2~5歳の子供の10%、10代の20%が肥満に分類される ZBIGNIEW BZDAK-CHICAGO TRIBUNE/GETTY IMAGES

「特にここ5年ほど、超加工食品の取りすぎは肥満、糖尿病、心臓病、鬱病、癌、腎臓・肝臓疾患のリスクを高めることを示す論文が非常に増えている」と、ニューヨーク大学のマリオン・ネスル名誉教授(栄養学・食品研究・公衆衛生)は言う。

「食品ではなく、化学製品」

食品加工の歴史は、人類が火を発見し動物の肉を焼いて食べるようになった遠い過去にさかのぼる。

古代メソポタミアとエジプトでは燻製、塩漬け、乾燥といった方法で食物が保存されていた。19世紀に低温殺菌と缶詰の製法が開発され、食物を長期保存し輸送する能力は飛躍的に高まった。

私たちがいま知っているような加工食品が誕生したのは20世紀前半。ジャガイモのでんぷんをつなぎにして、豚肉、ハム、砂糖、水、亜硝酸ナトリウムで柔らかい塊を作り、四角い缶に詰めた「スパム」が開発されたときだ。

以後、アメリカの中間層の拡大に伴い、手軽で長持ちする食品の需要が急増。食品業界はその利益で研究開発を進め、噴霧乾燥や凍結乾燥などの処理技術を編み出した。

ついには2年間保存可能なまずまずおいしいカップケーキが製品化され、2000年代初めにはアメリカ人の摂取カロリーの半分以上を加工食品が占めるに至った。

栄養学者がこの流行を表す用語を発明したのは2009年。この年、サンパウロ大学(ブラジル)のカルロス・モンテイロ教授が「NOVA食品分類システム」を発表した。これは栄養素ではなく、物理的・生物学的・化学的加工処理の程度と目的によって食品を分ける新しい分類法だった。

モンテイロは「超加工」という用語を発案し、次のように定義した。

「食品から抽出した物質(油脂、糖、でんぷん、タンパク質)、食品成分由来の物質(硬化油、加工でんぷん)、有機物の原材料を化学的に合成した物質(化学調味料、着色料、食品添加物など)によって、全体または大半が作られた工業化学製品」

要するに、超加工食品とは自然界に存在する食品から糖、塩、脂肪、でんぷんを抽出し、人工着色料、香料、安定剤などを混ぜ合わせたフランケンシュタイン的人工物だ。

ソフトドリンク、ホットドッグ、パッケージ製品のクッキー、塩味のスナック、冷凍食品、缶詰などが、このカテゴリーに入る。

「こういうものは食品ではない」と、モンテイロは言う。「化学製品だ。食品に属さない、属すべきでない化合物を含んでいる」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、FRBの政治介

ワールド

ウクライナ、和平計画の「修正版」を近く米国に提示へ

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中