最新記事

深圳イノベーション

コロナ後、深圳の次にくるメガシティはどこか──「プロトタイプシティ」対談から

2020年8月14日(金)07時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

NI QIN-istock.

<中国・深圳のイノベーションはなぜ世界を席巻したのか。深圳に代表される「プロトタイプシティ」の成立条件とは何か。デジタル化が発展に与える影響などを論じた伊藤亜聖・山形浩生両氏の対談(『プロトタイプシティ』収録)を抜粋する(後編)>

「まず、手を動かす」が時代を制した――。

このたび刊行された高須正和・高口康太編著の『プロトタイプシティ――深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)は、そう高らかに宣言する。

同書によれば、計画を立てるよりも先に手を動かして試作品を作る人や企業が勝つ時代になった。先進国か新興国かを問わず、その「プロトタイプ」駆動によるイノベーションを次々と生み出す場を、同書では「プロトタイプシティ」と呼び、その代表格である深圳の成功を多角的に分析している。

ここでは「次のプロトタイプシティ」をテーマに、東京大学社会科学研究所の伊藤亜聖准教授と翻訳家の山形浩生氏が対談した『プロトタイプシティ』の第四章(司会はジャーナリストの高口康太氏)から、一部を抜粋し、2回に分けて掲載する。

デジタル化とイノベーション、新興国と先進国......。さまざまな考察が飛び交った対談から、この後編では「プロトタイプシティ成立の条件」にまつわる議論を抜粋する。新型コロナウイルス禍を経て、深圳の次にくるメガシティはどこなのか。

※抜粋前編「デジタル化は雇用を奪うのか、雇用を生むのか」はこちら

◇ ◇ ◇

フラットな世界に高層都市

高口 ここまで、イノベーションの定義とその土壌、ポスト・デジタル化時代における途上国の発展のあり方について議論してきました。続いて考えてみたいのは、深圳に続くプロトタイプシティとはなにか、ポスト深圳はどこの街になるのかという問題です。

第三章で取りあげたように、深圳は東アジアの工業化の終点という歴史的経緯があります。そこから中国内陸部、あるいはベトナムなどの東南アジア諸国連合(ASEAN)に一部の大企業が移転する動きはあったものの、深圳のような集積は生まれていません。深圳は唯一無二の存在であり、次は生まれないという見方もあります。

伊藤 エレクトロニクスにおいては、近い将来、深圳を代替するような産業集積地域が生まれる兆候はまだないでしょう。ただし、山形さんの言葉を借りるならば、いかがわしい人間が集まっては変なことを繰り返して、なにかを生み出す。そうした新興国発イノベーションの震源地は、深圳以外にも現れると考えています。

ただし、どの都市でも経済成長を続けていれば、そのうちにプロトタイプシティになるということはありません。かつてトーマス・フリードマン『フラット化する世界 経済の大転換と人間の未来』(上下巻、伏見威蕃訳、日本経済新聞出版、二〇〇六年)は、ITの飛躍的な発展によって、世界経済は一体化し、どの地域でも同等の条件で競争が可能になると主張しました。二〇〇〇年代にはBOP(ベース・オブ・ピラミッド)、つまり世界人口の過半数を占める新興国、低所得層のマーケットが高成長を見込めるホットスポットだ、というコンセプトが注目されました。

しかしながら、現在から振り返ってみれば、成長する国と市場、成長しない国と市場とにはっきりと分かれています。新興国から新たな価値が生まれるとは、なにもすべての新興国がイノベーションの源泉になるという意味ではなく、一部の条件を備えた地域になるでしょう。

「フラットな世界に高層都市」という言葉が、この状況を生み出すのにぴったりの言葉でしょう。エドワード・グレイザー『都市は人類最高の発明である』(山形浩生訳、NTT出版、二〇一二年)の一節ですが、デジタル技術の発展によって、距離に関係なく様々なリソースにアクセスできるフラットな時代になったものの、その中でもクリエイティブななにかを生み出す場所、高層都市、あるいは摩天楼はごく一部に集中している、という意味です。

【関連記事】「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営者が語る

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、8人死亡 エ

ビジネス

英財務相、26日に所得税率引き上げ示さず 財政見通

ビジネス

ユーロ圏、第3四半期GDP改定は速報と変わらず 9

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中