最新記事

深圳イノベーション

デジタル化は雇用を奪うのか、雇用を生むのか──「プロトタイプシティ」対談から

2020年8月13日(木)06時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

mikkelwilliam-iStock.

<時代を制したのは「プロトタイプ」駆動によるイノベーションであり、それを次々に生んでいる場は中国の深圳だ――そう主張し、深圳の成功を多角的に分析した『プロトタイプシティ』から、伊藤亜聖・山形浩生両氏による対談を抜粋する(前編)>

ニューズウィーク日本版で「日本を置き去りにする 作らない製造業」という特集を組んだのは2017年12月。スマートフォンなどで世界を席巻する中国の「ものづくりしないメーカー」を取り上げた同特集の舞台は、2016~17年頃から注目を集め始めた「中国のシリコンバレー」こと深圳だった。

あれ以来、日本から多くの関係者やジャーナリストが深圳に出向いてきたし、実際に多くの日本企業が深圳の企業と取引を行ってきた。しかし、その本質を私たちは今もまだ理解していないのかもしれない。すなわち、深圳はなぜ成功したのか、ということだ。

このたび刊行された高須正和・高口康太編著の『プロトタイプシティ――深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)によれば、その答えはこうなる。

「まず、手を動かす」が時代を制した――。

同書によれば、綿密な計画を立て、検証して実行するのではなく、先に手を動かして試作品を作る人や企業が勝つ時代になった。先進国か新興国かを問わず、その「プロトタイプ」駆動によるイノベーションを次々と生み出す場を、同書では「プロトタイプシティ」と呼び、その代表格である深圳の成功を多角的に分析している。

具体的には、第一章でメイカームーブメントのエヴァンジェリストとして知られる高須正和氏が、プロトタイプシティの時代が技術という基盤に支えられていることを詳述。第二章では、シリアルアントレプレナーの澤田翔氏が「非連続的価値創造」(本書のキーワードのひとつだ)を生み出す条件を考察している。

続く第三章では、深圳でEMS(電子機器受託製造)企業を経営する藤岡淳一氏と、ジャーナリストの高口康太氏(ニューズウィーク日本版の「作らない製造業」特集の執筆者でもある)が、どのような経緯で深圳が形成されていったかを解説。

第四章では「次のプロトタイプシティ」をテーマに、東京大学社会科学研究所の伊藤亜聖准教授と翻訳家の山形浩生氏が対談し、最終章となる第五章には、「プロトタイプシティ時代の働き方」実践者へのインタビューを収録している。

長らくイノベーションの必要性を叫ばれながら、今も大きく後れを取る日本は、深圳から何を学べるのか。新型コロナウイルスが蔓延した世界で、これからの経済を牽引していくのはどんな企業、どんな都市か。ここでは『プロトタイプシティ』の第四章で展開された対談(司会は高口氏)から一部を抜粋し、2回に分けて掲載する。

※抜粋後編「コロナ後、深圳の次にくるメガシティはどこか」はこちら。

◇ ◇ ◇

デジタル化は新興国の発展を変えたか否か?

高口 『クリエイティブ資本論』において前提となっているのは、デジタル化を筆頭としたテクノロジーの発展です。新たなテクノロジーがクリエイティブ・クラスという、これまでにない層を生み出したという議論ですが、アメリカをはじめとする先進国の状況を描いた著作です。中国でも類似の状況があったというのは、興味深い指摘です。

関連して気になるのが、デジタル化以前の時代と以後の時代において、新興国の発展パターンに変化は生まれているのでしょうか。

【関連記事】「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営者が語る

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済、26年第1四半期までに3─4%成長に回復へ

ビジネス

米民間企業、10月は週1.1万人超の雇用削減=AD

ワールド

米軍、南米に最新鋭空母を配備 ベネズエラとの緊張高

ワールド

トルコ軍用輸送機、ジョージアで墜落 乗員約20人の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中