最新記事

映画

映画界に変革をもたらした『マトリックス』、18年ぶり最新作の「唯一の救い」は

Reappreciating The Matrix

2022年1月26日(水)18時00分
タウリク・ムーサ

220201p48_rtm02.jpg

世界観は前作を継承 ©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

ある意味で、それはウォシャウスキー姉妹の最も良い面が強烈に打ち出された作品だった。そして悲しいかな、シリーズ4作目の『マトリックス レザレクションズ』はその対極に位置する。

ラナが単独で監督したこの作品は、前3作の成功には冷淡で無関心な映画だ。前3作のように誇張され、バレエのように美しく振り付けられたアクション場面はない。ネオを支える新しい仲間は個性のない美化された殺し屋にすぎない。これではマトリックス映画の抜け殻だ。

姉妹のファンがさらに失望するのは純粋な意図──クリエーターが心から、理不尽なまでに望んだからこそ作品が存在するという感覚──の欠如だ。前3作で監督は物語を本気で信じさせることに専念し、隠れた意味や比喩を気にしなかった。

だが『レザレクションズ』では、その創造性は自己認識へと縮小し、観客に身内ネタのジョークを仕掛け、その過程で自滅していく。

ワーナー・ブラザース制作のゲーム『マトリックス』が、実はネオが設計して20年近く前に流行したゲームだという設定で登場したり、青い縁の眼鏡を掛けた「セラピスト」がネオに青い薬を処方したり。ネタ元に気付くのは楽しいが、こうも露骨だと楽しんでいられない。

そう、ウォシャウスキー姉妹の作品なのに、『レザレクションズ』は少しも楽しくない。『マトリックス』前3作も『センス8』も、高揚感があってロマンチックで、やや哲学的でありながら最高に楽しかったのだが。

記憶に残るアクションも迫力なし

第1作では、ネオが初めてスミスに立ち向かおうと決意する場面で、観客はネオの中で何かが変わったことに気付く。第2作『リローデッド』のハイウエーの戦闘シーンでは、モーフィアスとトリニティーがネオなしで戦い、彼ら自身の勇気とネオへの変わらぬ思いを示す。これらのシーンが本当の意味で際立つのは、物語と各キャラクターの理解につながっていたからだ。

ところが『レザレクションズ』には、記憶に残るようなアクション場面がない。カーチェイスもなければ、ホールでの銃撃戦も、スミスに支配された世界でスミスとドラマチックに戦うネオもいない。

これまでの戦いには世界を救うという目的があったが、『レザレクションズ』での戦いはネオにとって迷惑でしかないようだ。すっかり中年になったネオは、銃に手を触れることもない。

ウォシャウスキーの作品を特別なものにする要素を抽出するのは難しくない。斬新で記憶に残る戦闘シーン、真剣な物語を伝える巧妙なコンセプトの発展、記憶に残るキャラクター、そして徹底してクールであること。その全てが『レザレクションズ』には欠けている。唯一の救いは、これを見れば『マトリックス』前3作の素晴らしさを再確認できることだ。

©2021 The Slate Group

THE MATRIX RESURRECTIONS
『マトリックス レザレクションズ』
監督╱ラナ・ウォシャウスキー
主演╱キアヌ・リーブス
   キャリー・アン・モス
日本公開中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、GDPワラント債再編手続き完了 デフォ

ワールド

プーチン大統領、北朝鮮の金総書記に新年のメッセージ

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中