最新記事

K-POP

ビルボード1位獲得のBTS──ダイナマイトな快進撃の舞台裏

2020年10月1日(木)18時30分
クリストファー・モランフィー(音楽チャート評論家)

BTSの個性的なメンバーたち(前列左からJUNG KOOK、RM、J-HOPE、後列左からJIMIN、SUGA、JIN、V) ©BIG HIT ENTERTAINMENT

<韓国人アーティストとして初の全米第1位は猛烈な努力と緻密な計算、そして小さな妥協の産物>

イギリスのパイ・レコードの社長が、日本から1枚のシングルを持ち帰ったのは1962年のこと。東京で聴いた坂本九というアーティストの曲「上を向いて歩こう」が忘れられなかったからだ。

とはいえ、歌詞は全て日本語。「ウエヲムイテアルコウ」というタイトルの意味さえ分からない。そこで、パイの契約アーティストであるケニー・ボールのバンドに、ジャズ風にアレンジしてインストゥルメンタル曲として発表させることにした。タイトルは「スキヤキ」だ。

「スキヤキ」はイギリスではそこそこヒットしたが、アメリカでは全くウケなかった。ところが翌年、ワシントンのラジオ局が坂本のオリジナル版を流したところ、リスナーから問い合わせが殺到。急きょ「上を向いて歩こう」のアメリカにおける発売が決まった(ただし曲名は「スキヤキ」のままとされた)。

それは、ビートルズがアメリカにやって来る半年ほど前のことだった。当時のアメリカでは、イギリスのヒット曲でさえ異質な音楽と受け止められることが多かった。そんななか、坂本が日本語で歌う「スキヤキ」は、ビルボードのシングルチャートで3週にわたり第1位を獲得した。

以来、そのソウルフルなメロディーは、国内外の数え切れないほどのアーティストにカバーされたり、サンプリングされたりしてきた。一般のアメリカ人には意味が分からないアジアの言語の曲が、全米ナンバーワンに輝いたのは後にも先にも「スキヤキ」だけだ。

その記録は、韓国の人気グループBTS(防弾少年団)がこの9月、新曲「Dynamite」で、ビルボードのシングルチャート初登場第1位の快挙を成し遂げた今も変わらない。なぜか。それは「Dynamite」が英語で歌われているからだ。

BTSはRM(アールエム)、SUGA(シュガ)、JIN(ジン)、J-HOPE(ジェイ・ホープ)、JIMIN(ジミン)、V(ヴィ)、そしてJUNGKOOK(ジョングク)の男性7人組のグループだ。

キレッキレのダンスと、キャッチーなメロディーにラップを絡めた曲、そして今や世界中に存在する熱烈なファン(ARMY[アーミー]と呼ばれる)の猛プッシュで、数あるKポップグループの中でも群を抜く成功を収めてきた。

韓国語にこだわったが

だが、これまで彼らの曲は基本的に韓国語だった。本格的にアメリカに進出してからも変わらない。2017年にアメリカン・ミュージック・アワードで歌った「DNA」も、2018年にABCの朝の情報番組『グッドモーニング・アメリカ』で歌った「IDOL」も、2019年にNBCのコメディー番組『サタデー・ナイト・ライブ』で披露した「Boy With Luv」も韓国語だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

習氏、台湾問題で立場明確に トランプ氏と電話会談=

ビジネス

EU、AIの波乗り遅れで将来にリスク ECB総裁が

ワールド

英文化相、テレグラフの早期売却目指す デイリー・メ

ビジネス

FRBウォラー理事、12月利下げを支持 1月は「デ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中