最新記事

海外ノンフィクションの世界

ここまで分かった「学習」の科学 繰り返し読む、蛍光ペンでマーク...意味ある?

2018年10月23日(火)17時00分
月谷真紀 ※編集・企画:トランネット

マンツーマン学習、こちらはデータの裏づけで効果が実証されている。自分の知識や興味のレベルに合わせて指導や動機づけをしてもらえるし、先生からのフィードバックもたくさん得られるからだ。

そして、情報を自分なりの言葉で繰り返すと記憶しやすくなる。内容を要約してみることは認知能力を関与させる行動だからだ。同じように、読んだ内容を頭の中にイメージとして思い描くと記憶に定着しやすい。

本書の魅力はエピソードの豊富さにもある。著者は研究者にインタビューするだけでなく、みずからも体験取材したり、画家ジャクソン・ポロックのテクニックの進化や手術中のミスを記録し続けた医師の事例を紹介したりして、抽象的になりがちな学習学の世界に読者が入りやすくする工夫をしている。

そして、本書は読み物としてだけでは終わらない。巻末に「ツールキット」のページが設けられており、学生向け、教育者向けそれぞれに、本書の内容をあらためて要約し、実践的に生かせるノウハウとして伝授されているのだ。読んで面白いだけでなく使える一冊となっている。

印象的なセンテンスを対訳で読む

以下は『Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋した。

●For just about all of us, what matters today is not the data itself--what matters is how we can think better with that data. More exactly, how do we acquire new skills most effectively?
(ほとんどの人にとって、今大事なのはデータそのものではない。そのデータを使っていかに思考の質を上げられるかだ。もっと厳密に言うなら、新しいスキルをいかに効果的に習得するか)

――本書の導入部に掲げられた問題提起である。デジタル時代に入って情報の価値が変わり、情報を知っているかどうかよりもその情報をいかに自分のものとして使いこなすかが重要になっている。

●When it comes to rethinking our learning, we need external checks. After all, people often fib to themselves. Like con artists, we believe our own lies, especially about learning, and most of us think that we know a lot more than we do.
(学んだことを再考する際には、外部からのチェックが必要だ。人は自己欺瞞に陥りやすい。こと学習に関しては、詐欺師のように自分がついた嘘を信じ込んでしまい、ほとんどの人が実際以上に自分には知識があると考える)

――自分一人で学習を深めるのはなかなか難しい。著者は先生や仲間によるフィードバックの効用を紹介し、小テストや分散学習(間隔を空け、忘れた頃にもう一度学ぶ)の活用を勧めている。

◇ ◇ ◇

人生100年時代と言われるようになり、大人になってからもスキルや能力をアップデートしていく必要性を感じている方も多いのではないだろうか。長くなった現役時代だけでなく、仕事を引退してからも、学び続ければ人生は豊かになる。学生だけでなく、幅広い年代が役立てられる本だ。


『Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』
 アーリック・ボーザー 著
 月谷真紀 訳
 英治出版

トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
http://www.trannet.co.jp/

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ

ワールド

野村、今週の米利下げ予想 依然微妙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中