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大震災で日本人はどこへ向かうのか

3.11 日本の試練

日本を襲った未曾有の大災害を
本誌はどう報じたのか

2011.06.09

ニューストピックス

大震災で日本人はどこへ向かうのか

日本の経済はそう遠くない時期に復興する。それより問題なのは人々の心理に及ぼす影響だ

2011年6月9日(木)09時56分
ビル・エモット(元英エコノミスト誌東京支局長・編集長)

 日本に移り住んだ外国人が最初に覚える日本語の1つが「ガンバッテクダサイ」だ。別れの挨拶のときに、日本人がよく使う言葉である。アメリカ人やイギリス人が「気を付けてくださいね」「楽しんできてくださいね」と言う代わりに、日本人は「どうか我慢してほしい」という意味の言葉を用いる。

 その日本人の我慢強さと禁欲の精神が今ほど試されるのは、1945年の第二次大戦敗戦以来だ。3月11日の東日本大震災のように多くの人命が突然失われることに、工業化の進んだ近代的な成熟社会は慣れていない。原子力発電所の被災に伴う放射線への不安に対処することにも慣れていない(本稿執筆の時点でその不安はまだ解消されていない)。

 従って、東日本大震災が日本の経済と政治と国民心理に及ぼす長期的な影響に関して、安易に結論を出すべきではない。現時点で可能なのは、日本やほかの国々の自然災害の経験を参考に震災の影響を考えることだ。それを通じて、この先数週間、数カ月、そして数年間に最も重要なことが何かを知る手掛かりが得られるかもしれない。

 まず、過去に起きた災害の経験から引き出せる最も重要な教訓は、経済への影響は優先順位が最も低いということだ。

 GDPだけを見れば、大規模な自然災害の後は一般的に、オフィスや工場、輸送ルートが損害を受けて、経済生産が差し当たり減少する。だが、05年にアメリカを襲った巨大ハリケーン「カトリーナ」のときも、6400人が犠牲になった95年の阪神淡路大震災のときも、数カ月後には復興需要で雇用が生まれ、所得が増え、経済活動が活性化した。

 とはいえ、日本の経済は過去20年にわたって振るわず、政府は巨額の債務を抱えているのではないか、日本の経済と政府は復興費用の負担に耐えられるのか──。日本の外には、このような疑問を抱く人が多い。

デフレからインフレに?

 確かに90年代半ば以降、日本経済は低迷し続けてきた。しかしそれは主として、目を見張る経済成長を実現した70年代と80年代と比較しての話だ。日本は09年の世界経済危機で打撃を受けたが、10年には経済が力強い回復を見せ、3・9%の実質GDP成長率を記録した。

 00年以降の長期で見た成長率は冴えないが、(出生率が低下し、その上、移民をほとんど受け入れていないため)人口が若干減少しており、1人当たり所得は、GDP成長率の数字が与える印象ほど悪い状況でない。

 日本経済の本当の弱点は、政府債務とデフレだ。今や日本の公的債務の総額はGDPの約200%に達する。政府機関がほかの政府機関に負っている債務を除外しても、その割合は約120%。約80%のアメリカと比べても、かなり高い数字だ。

 それでも、日本国債の大半は国内の投資家が保有している。この国家的な危機の時期に、政府の新規の借り入れに重大な支障が出ることはないはずだ。

 加えて、日本政府は復興税を新設して財源にできる可能性が高い。いま日本の国民は犠牲を払い、負担を分かち合う覚悟が十分にできている。

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