コラム

人種差別主義者は、生まれた時から差別主義者? 米上院議員の「赤っ恥」質問(パックン)

2022年04月05日(火)18時49分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
テッド・クルーズ上院議員(風刺画)

©2022 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<米最高裁判事の候補となっている黒人女性を何とか攻撃しようとして、共和党のクルーズ議員が放った質問が失笑を買ってしまった訳>

不条理で残酷な攻撃に立ち向かう勇者に心を打たれる。戦いから目が離せない。もちろん、米連邦最高裁判事の候補を審査する上院公聴会の話だ。

法律や大統領令をも覆せる強大な力を持つ最高裁判事は、大統領による指名が上院で承認されたら、自ら辞めるまで務める。つまりアメリカで2つしか残っていない終身雇用の仕事だ。(もう1つは「親」)。そして、判事は9人しかいない。

超重要なポストだから、毎回の公聴会がビッグイベントだが、今回は史上初の黒人女性判事の誕生が懸かっているから、特に注目度が高い。同時に、本来厳しい質問をぶつけたい野党・共和党の議員にとってはやりづらい。気を付けないと、差別主義者だと思われかねないからだ。

でも、共和党テッド・クルーズ議員はひるまない! 最高裁判事指名候補で超一流の法律家、ケタンジ・ブラウン・ジャクソンへの武器にクルーズが選んだのは......子供向けの絵本!

ジャクソンが理事を務める私立学校で使われている『Antiracist Baby(反人種差別主義の赤ちゃん)』を手に、Do you think babies are born racist?(あなたは、この本が言うように赤ちゃんが差別主義者として生まれると思うのか?)と責めた。

だがこの本は、赤ちゃんが成長過程で差別主義か反差別主義のどちらかを必然的に教わることを前提に、親や保護者に多様性を歓迎する反差別主義の子供の育て方を伝授するもの。赤ちゃんが差別主義者として生まれるなんて書いていない。

クルーズの質問は、ビッグマックの袋を持って「あなたは寿司を食っている!」と結論付けるようなもので、支離滅裂だ。

実際の公聴会でジャクソンは冷静に反論したが、風刺画でもNo, Senator... I think you learned that(いいえ議員......あなたはそれを教えられたと思う)ときっぱり。ここでの「それ」とは「差別主義」を指す。つまり、クルーズはこの絵本が恐れる、差別主義に育てられたケースだとほのめかしているわけ。

クルーズが差別主義者だとは決め付けられないけど、反差別主義の本に反対なので「反反差別主義」なのは間違いない。でも彼のおかげで、絵本は注目を浴びアマゾンでベストセラーになった。「反反反差別主義」の力も侮れない!

ポイント

HON. KETANJI BROWN JACKSON
ケタンジ・ブラウン・ジャクソン。Hon.はHonorable(名誉ある)の略で、判事などに付けられる儀礼的な称号。ジャクソンはワシントンの連邦高裁判事で、引退を表明したスティーブン・ブライヤー最高裁判事の後任としてバイデン大統領が指名した。

SEN. CRUZ
クルーズ上院議員。Sen.はSenator(上院議員)の略。テキサス州選出のクルーズは共和党内でも保守強硬派とされる。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、ハイテク株高で 一巡後は小動き

ビジネス

午後3時のドルは147円前半、米金利低下で上値重い

ワールド

ドイツ、バルト諸国と安保で協力緊密化へ ロシアの脅

ビジネス

フォードの電池工場、従業員が労組結成支持 UAWが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story